「8月26日、国立健康危機管理研究機構(以下JIHS)が、今年のマダニ感染症の累積患者数が143人になったと発表しました。

2013年に初めて感染が報告されて以降、もっとも患者数が多かった2023年の134人を、現段階ですでに超えて、過去最多数を更新しています」(医療ジャーナリスト)

マダニ感染症とは、マダニが媒介するウイルスが引き起こす「重症熱性血小板減少症候群(以下SFTS」のこと。

JIHSによると、発生は4~10月に多く、2025年4月までの累計患者1071人のうち、9割が60代以上で、死亡事例は117件だと報告されている。

立川パークスクリニック院長の久住英二さんが解説する。

「SFTSウイルスを媒介するマダニに人や動物がかまれて、感染します。人間の場合、潜伏期間は6日~2週間で、食欲不振、嘔吐、下痢といった消化器症状や、高熱を引き起こします。

さらに重症化すると、血液を凝固させる血小板が減少して、気道や歯茎などからの出血、消化管出血を招けば血便や血尿を引き起こします。致死率は10~30%と非常に高い感染症です。

SFTSは高齢者に多い病気ですが、若い人の中には、感染したものの軽症のまま終わり、SFTSだと気づかない人もいると予想されます。実際の患者数は、報告数を上回っているでしょう」

西日本に多く発生しているが、JIHSの33週目のデータでは、北海道や神奈川県、秋田県、茨城県、栃木県でも点在している。

「マダニは暖かい場所で活発になるので、地球温暖化が一因だと考えられます。

またSFTSウイルスを媒介するマダニは、野生動物に寄生して、感染を拡大させてきた側面もあると思われます。地域によって異なりますが、野生のニホンジカやイノシシの15~40%以上、タヌキやアナグマ、ハクビシンの10~30%程度が、過去にSFTSウイルスに感染したことがあるという調査もあります。

人口の多い神奈川県や千葉県などでも患者が発見され始めているため、患者数が激増する可能性があります」(久住さん、以下同)

■マダニにかまれる以外にペットからも感染する

SFTSウイルスは、ダニにかまれるばかりでなく、感染した動物との濃厚接触や、糞便から感染してしまうケースもあるという。

「今年5月には、マダニ感染症の猫の治療をしていた獣医師が死亡するケースがありました。宮崎県と長崎県の調査では、SFTS感染歴のある動物病院スタッフの割合が2~4%あったのです。動物から感染するケースも増えていくことが考えられます」

人間と接触機会の多いペットの感染予防も、これまで以上に求められる。

「犬は感染しても無症状であることが多いですが、猫は特に注意が必要です。黄疸が出たり、口や鼻からの出血、血便症状が出て、60~70%が死に至るという報告があります。犬や猫を飼っている場合、マダニ予防薬を使用しましょう」

人間の場合は、マダニがいそうな草むらや山道、アウトドア場などでは長袖、長ズボンが安心。マダニが付着しても確認しやすい明るい色の服を着るようにする、ズボンの裾を靴下に入れて足からの侵入を防ぐなどを、JIHSでは呼びかけている。

■痛みやかゆみを感じなくホクロのように見える場合も

「外出時に虫除け剤を使うのも効果的です。マダニは、人の出す二酸化炭素を嗅ぎつけて寄ってくるため、虫除け剤によってマダニの嗅覚を弱めるのです」

虫除け剤の成分によって、効果の持続時間が変わってくる。ディートは有効成分30%で5~8時間、イカリジンは有効成分15%で6~8時間効果があるという(JIHS資料参照)。

「ディートはプラスチックを溶かしてしまうので、腕時計のバンドなど傷めてしまうことがあります。コショウの成分に近いイカリジンのほうが使いやすいでしょう。

また、虫除け剤はスプレータイプだと多くが空中に散布され、あまり皮膚に付着しないことがあるので、液体ポンプやローション、ジェル、クリームタイプなどの虫除け剤をおすすめします。

皮膚の露出部すべてに塗るようにして、汗で流れたら塗り直しましょう。

マダニは皮膚に付着したのち、脇の下など皮膚の柔らかい場所に移動してかみつきます。ただ、痛みもかゆみも感じにくいので気づかない。見慣れない、色の抜けたホクロのようなものがマダニだった、ということもあります」

万一、マダニにかまれた場合は、無理に取ろうとせずに皮膚科など医療機関に診てもらうことだ。

「マダニを外すための医療用ピンセットを使用しないと、体にマダニの口が残ってしまうためです。

また治療はアビガンといった抗ウイルス薬を使用します。ウイルスが増える前の早い段階で治療しなければ、効果が得られません」

マダニ感染症対策には、感染予防と早期発見・早期治療が大事なのだ。

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