9月11日、自由民主党の総裁選への出馬の意向を固めたと報じられたのは高市早苗前経済安全保障担当大臣(64)。立候補に必要な20人の推薦人の確保の目途もついたと伝えられた。

前回の自民党総裁選では、わずか21票差で石破茂首相(68)に敗れた高市氏。先日のJNNの世論調査でも、次期総理にふさわしい政治家で、小泉進次郎農林水産大臣(44)と同率1位になるなど、自民党総裁、そして内閣総理大臣の有力候補とみられている。

「高市早苗さんは総理大臣どころか、政治家の資格が全くない人です。高市さんが自民党総裁、かつ日本の総理大臣になったら、日本の議会制民主主義がさらに破壊されてしまうでしょう。国民国家に取り返しのつかない大きな災難をもたらす危険があります」

そう危機感をあらわにするのは、立憲民主党の小西洋之参議院議員だ。そんなふうに断言するのには、明確な理由があるという。

■「憲法違反行為に加担している」

2016年、安倍政権下で、放送法における「政治的公平性」を定めた政府解釈の変更が行われた。それまでは、放送局の<番組全体で判断する>というのが政府の公式な解釈だったが、当時総務大臣だった高市氏は国会で、<極端な場合は、1つの番組のみでも政治的公平性を判断できる〉と答弁。放送への権力の介入を容易にする解釈変更が行われた。

2023年、小西氏はこの解釈変更に至る経緯を記した総務省の行政文書を公開した。

「総務省の良心ある官僚から提供を受けていた文書の内容は驚くべきものでした。礒崎陽輔首相補佐官(当時)が、〈1つの番組でも明らかにおかしい場合があるのではないか〉、〈首が飛ぶぞ。

もうここに来ることができないからな。〉などと、総務省の官僚たちに“レク”で恫喝のように迫り、めちゃくちゃな解釈を作らせていた。それを安倍晋三首相(当時)が了承し、高市氏が加担していく様子が記されていました」

“レク”とは、官僚による説明のための面談のこと。小西氏が言うように、文書には、安倍首相(当時)が「総務大臣から答弁してもらえばいいのではないか」など発破をかけ、さらに高市氏が「総務大臣は準備をしておきます」などと、官邸に対して伝える言動も記されていた。

元総務官僚の小西氏は一読して、文書が真正の行政文書であることを確信したという。

「かつて私も所属していた放送政策部局のエース官僚3名の名前が作成者として記されていました。課長補佐が下書きをし、課長、局長がチェックをして一言一句間違いのないものとして作成されています。さらに、これらの文書は、総務省の最高幹部である、事務次官級といった複数の幹部に安倍総理や高市大臣の見解等を報告するために使用されていました。つまり、超一級の正真正銘の行政文書だったわけです」

小西氏は違法な法解釈の撤回を目指して、国会で質問することを決意する。その過程で、高市氏への責任追及は避けて通れないものだった。

「すべては、高市氏の“大臣レク”で始まり“総理レク”で決まっていますから、磯崎氏、安倍首相、高市氏、この3人が主犯です。憲法21条『言論の自由、報道の自由』を侵害する法解釈を作ったのですから、憲法違反行為であり、当然の放送法に反する違法行為。

主犯のひとりである高市氏には重大な責任があります」

総務省側にも同一の文書が省内にあることを確認したうえで、参議院予算委員会の質疑に臨んだが、高市氏から返ってきたのは驚きの反応だった――。

■捏造でなかったら辞職するはずだったのに……

高市氏は当該文書を「悪意を持って捏造されたもの」「怪文書の類」などと主張。さらに、「 “大臣レク”などなかった」と言い、大臣室の職員2人も「絶対にないと言ってくれている」と強弁した。

「非常に驚きました。この文書は“行政文書”として総務省も認めています。仮に官僚が行政文書を捏造していたとしたら、国家公務員法上で懲戒処分の対象になりますし、公文書偽造行使罪で犯罪になるんです。つまり、高市氏の言っていることは、かつての部下を懲戒処分の対象かつ刑事犯罪人だと言っているのと同じなんです」

さらに、高市氏は文書の内容が真実であることを証明するように小西氏に求めてきたが……。

「高市総務大臣の下で、総務官僚のみなさんが事実に基づいて公文書を作成したわけです。なぜ私に証明を求めるのか、わけがわかりません(笑)」

小西氏は高市氏に「仮にこれが捏造の文書でなければ、大臣そして議員を辞職するということでいいか」と迫ったところ、高市氏は「結構です」と答弁している。

「しかし、作成者である総務省の3人の官僚たちは『ねつ造はしていない』と国会に報告しました。高市氏に大臣レクがなかったと言ったとされている2人も、『“絶対ない”という表現をしたかどうかは、記憶にない』というふうに証言したんです」

結局、総務省も「レクがなかったとは考えにくい」「捏造ではないと考えている」と結論付け、文書の真実性は確定的になった。しかし、高市氏は“捏造発言”を撤回せず、大臣職はおろか国会議員も辞職しなかった。

「結局、高市さんは、自らの保身のために違法行為、犯罪行為を部下に押し付けた。これほど政治家としての責任感に欠ける人物っていうのは、古今東西なかなかいないぐらいです。あのときすぐに議員辞職をすべきだったと思います」

■「政治家として恥ずかしい」と同僚もあきれ顔

高市氏を、霞が関や永田町では冷ややかに見ている。

「官僚の皆さんは、高市さんを心から軽蔑しています。『あの発言はないよな』『政治家として絶対ありえない』『最低だ』という声も聞きました。議員会館のなかでいっしょになった自民党の議員さんでさえ、『高市さんの答弁はありえない』『政治家として恥ずかしい』とおっしゃっていました」

もし、高市氏が総理に選ばれたとしても、官僚は“高市総理”を信頼することはないだろうと小西氏は考えている。

「結果的に、放送法の解釈変更は、この文書が明らかになったことで、2023年3月17日の私の質疑で実質的な撤回が行われました。しかし、高市さんはいまだに政治的な責任をとっていない。

行政文書を含む公文書というのは国民主権のためのものですが、保身や私利私欲のためにそれをねじ曲げてしまうような人物が総理になれば、議会制民主主義ですとか、法の支配ですとかが成り立たなくなる。そして、そういう人が上に立てば、社会の道徳もおかしくなってしまうのではないでしょうか」

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