《今日あったことを報告して、「また来るわね」「明日も来るわね」と、いつも話しかけています。お夕飯のときがとても寂しいです。

いつも隣にいた人がいないから……》

『婦人公論』10月号で、今年3月25日に亡くなった映画監督の篠田正浩さん(享年94)について語ったのは、妻で女優の岩下志麻(84)。

篠田さんの逝去から半年が過ぎようとしている。岩下は、58年にわたって篠田さんに連れ添い、同時に彼の映画に欠かせない主演女優でもあった。

「2人は、篠田さんの監督作品『乾いた湖』(’60年)での出演をきっかけに交際をはじめ、’67年に結婚しました。

同年に制作会社『表現社』を設立し、『心中天網島』(’69年)や『沈黙』(’71年)など、日本映画史に残る作品を夫婦で共作。お互いを『戦友』『同志』と呼び合うなど、岩下さんと篠田さんは芸能界きってのおしどり夫婦として長らく映画界の第一線で活躍していました」(映画関係者)

だが、’21年に篠田さんがパーキンソン病を患っていることを公表してからは、岩下は夫の介護に専念する時間が長くなった。

「篠田さんは亡くなる数年前から足腰が弱ってしまい、自宅の階段の上り下りも難しい状態だったそうです。その間、岩下さんは“できるだけ夫のそばにいたい”と、介護のために女優業をセーブしていました。

今年3月29日に開催が予定されていた『極道の妻たち』記念イベントのオファーがあった際にも、出演を最後まで決めかねていたそうで、最終的に承諾したものの、“公の場に出るのはこれでもう最後にさせてほしい”との申し出まであったといいます。

ご主人のために“女優としての引き際”を考えていたそうで、岩下さんの中ではこのイベントを区切りにするつもりだったのでしょう。しかし、開催の4日前に篠田さんが逝去し、イベント出席自体が取りやめになってしまいました」(芸能プロ関係者)

“引退も辞さない”と決断した直後、最愛の夫を亡くすことになった岩下。その後、岩下はメディアのインタビューなどには応じているものの、公の場には姿を現していない。

■このまま何もしないで生活していたら…

しかし、逝去から半年が経過し、次第に彼女の中でも心境の変化が起こってきたという。岩下の知人が明かす。

「この半年間、失意のなかで夫亡き後の生き方について熟考した末、岩下さんは“やっぱり私は女優を続けたい”と、女優業の継続を決断したそうなのです。

かつて出産を機に女優引退をほのめかした際、篠田さんから“君は女優をしているときがいちばん輝いている、君にはずっと輝いていてほしい”と、笑顔で告げられた思い出が大きかったようです」

5年前に本誌が行ったインタビューでも、岩下は“篠田さんとの約束”についてこう明かしていた。

《2年の同棲生活のあと、私が26歳のときに結婚したのですが、そのとき篠田が言いました。「結婚しても、女優はやめないでほしい。むしろ結婚生活を栄養分にして、女優としてもっと豊かになってほしいんだ。女優として家庭は休息の場にして、家事もいっさい放棄していいよ」。私自身、役に入り込むタイプですから、この言葉はありがたかったです》(本誌’20年10月20日号)

また女優継続の決断には、ほかにも理由があったという。

「岩下さんは、認知症によって篠田さんとの長年の思い出を忘れてしまうのをとても心配しているといいます。

最近、年齢による体力の衰えを実感しているところもあるようで、“このまま何もしないで生活していたら認知症になりかねない”と不安を周囲に明かすことも少なくないそうです」(前出・岩下の知人)

岩下は以前から健康に気を使っており、60代から太極拳を20年以上続けているほか、食生活やストレス対策にも気を付けているという。

《食事は一日3食を欠かさず、もずくとお豆腐を毎日食べています。

(略)そして、食事前にはマントラを唱えながら瞑想します》(『美ST』’23年10月号)

さらに女優継続に向けて“相棒”ともいえる人物による力強いサポートもあるようだ。

「篠田さんが亡くなってから、俳優の北大路欣也さん(82)が岩下さんのことを気にかけているようです。映画『祇園祭』(’68年)で共演して以来、2人は長らく家族ぐるみで親交があるといいます。2人で思い出話に花を咲かせることもあるそうです。

北大路さんは、東京郊外にお気に入りの果樹園があるそうで、そこでとれるぶどうや梨、桃といった季節の果物を、折に触れて岩下さんに送っているそうなのです。岩下さんも喜んで召し上がっているといいます」(前出・芸能プロ関係者)

果物は認知症予防に効果が期待でき、とくにぶどうには、ポリフェノールなどの脳機能の低下を抑える成分が含まれていると言われている。

岩下の女優継続について所属事務所に取材すると、担当者は次のように答えた。

《現在でも岩下は篠田さんの逝去を悼んでいる状況です。しかし、彼女は女優継続を望んでおり、内容やスケジュール次第ではありますが、魅力的なオファーがありましたら、いつでもお受けしたいと考えております》

亡き夫との笑顔の思い出を守るため、岩下は女優であり続ける。

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