最近耳にする「墓じまい」とは先祖代々の墓石を撤去して、遺族による管理が不要な墓へ“改葬”することを指す。厚生労働省によれば、2023年度の改葬件数は全国でおよそ167,000件。
「墓じまいの理由としては、『継承者がいない』『自分の子どもに寺との付き合いで面倒をかけたくない』などが挙げられます」
そう話すのは、墓じまいや改葬の事情に詳しい大塚法務行政書士事務所・代表の大塚博幸さん。
この記事を書いている本誌記者も、まさに墓じまいを検討中だ。兵庫県三田市に位置する先祖代々の墓には、祖父母、父、兄の4人の遺骨が埋葬されている。しかし、実家のある神戸市から三田市の霊園までは、車で約50分かかるうえ、高齢の母が免許を返納してからは、ほとんど墓参りに行けていない。
「あなたも東京暮らしだし、跡継ぎもいない。私が元気なうちに、永代供養墓に改葬したほうが、負担も軽くなるでしょ」
母の言葉をきっかけに、改葬することを決意した。しかし、何から始めればよいのかわからない……。そこでまずは、前出の大塚さんに、手順や注意点を聞くことにした。墓じまい・改葬をスムーズに行うには、3つのコツがあるという。
「1つ目は、親族と話し合って合意を得ておくことです」
先祖代々の墓に思い入れのある人も多く、事後報告ではトラブルに発展する可能性が高い。
「次に、総予算を決めましょう。
墓石の撤去費用は、1平方mあたり平均10万~15万円。抜魂料の相場は、3万~5万円だ。ただし、お寺や霊園に見積もりを依頼する際には細心の注意が必要。
「3つ目のコツは、管理している寺や霊園への“墓じまいの伝え方”です。特に、寺の檀家として長年お世話になっている場合、『管理費が負担になるので墓じまいします』などと、一方的に意思を伝えるのは避けたほうが無難です。『継承者がいないので、今後のことを相談したいのですが』など、あくまで助言を求める姿勢で臨むことが大切です」
一方的に切り出すと、改葬や離檀の話が進まなくなったり、改葬に必要な“改葬許可申請書”への署名を渋られるなど、トラブルに発展するケースもあるという。「改葬許可申請書」とは、「改葬許可証」を得るための書類のこと。自治体で取得して、必要事項を記入し、改葬先に提出する流れだ。
こうした注意点を踏まえ、先祖代々の墓がある霊園に見積もりを依頼した。筆者の場合、寺の檀家ではないので、檀家をやめる際に、お布施として払う離檀料は必要なかった。結局、かかったのは墓石の撤去費用と抜魂料を合わせて20万円ほど。
「改葬先として代表的なのは、永代供養墓です。いちばん人気なのは、墓石の代わりに樹木や花を墓標とした“樹木葬”。都市部などでは納骨堂に改葬する方も多いですね」
母の希望は、「地元から離れたくないので、同じ墓地の永代供養墓に移したい」というものだった。
さっそく費用を問い合わせると、1霊目の永代供養料は10万円、2霊目以降は1霊につき5万円だった。筆者の場合、4霊分の永代供養料に加え、お布施や塔婆などを含めても50万円以内に収まった。
かなりリーズナブルだが、ひとつ懸念点が……。それは、筆者が東京在住のため、いずれ母が他界すれば、地元へ帰省する機会が減ってしまうということだ。都内に移した場合も検討しておこうと思い、樹木葬を行っている東京都の霊園にも問い合わせてみた。
費用を確認すると、4霊の遺骨をひとつの骨壺に納め、ほかの遺骨と合祀する「シェアハウス型」で約60万円。さらに粉骨費、納骨料、さらに年間管理費が約5千円かかるという。これだけで85万円ほどだが、ほかにも遺骨の輸送費がかかる。
比較した結果、やはり、地元の永代供養墓と契約することに。コツを押さえたことでトラブルもなく、およそ50万円ほどで墓じまいをすることができた。
どこで永遠の眠りにつくか――。予算も含め、しっかりシミュレーションを行ったうえで、後悔のない改葬先を選ぼう。