荒木大輔「清宮へ」“先輩”だから言えることの画像はこちら >>


(写真:アフロ)



2月2日午前9時45分。沖縄県国頭村の「かいぎんスタジアム国頭」に、黒と白のユニホーム姿の選手が約30人、整列していた。

胸には白抜きでFightersの縫い取り。その前日から、北海道日本ハムファイターズのファーム(2軍)キャンプが始まっていた。



ジョギングや体幹トレーニングなどのアップを終え、走塁練習に移る選手たち。その様子を、バックネット前に立ち、サングラス越しに見つめる姿があった。背番号「85」。今年からファーム監督に就いた荒木大輔さん(53)だ。



一塁から三塁に駆け抜ける選手を、ただ、じっと、黙って見守る。投手陣のピッチング練習が始まっても、荒木さんは無言のまま、投手が投げる球筋を真剣に見つめていた。



「いまの時期は、新たな気持ちでのフォーム固めやバランスの取り方を重視します。ただ、ルーキーはプロに入って初めてのブルペンですから、力みまくってバランスを崩したり、自分の持っているものを出せないまま投げてしまう。私は、どれだけバランスが取れているかを見て、ケガのないように、ときには『楽にやれ』と言ったりします」(荒木さん・以下同)



野球解説者としてもおなじみの荒木さんは、かつては「大ちゃん」の愛称で親しまれた甲子園の大スター。早稲田実業の1年生投手として'80年夏の甲子園大会で準優勝を果たした彼は、端正なマスクで渾身のストレートを投げ込み、世の女性たちを熱狂させた。



その“大ちゃんフィーバー”は高校3年間のみならず、ドラフト1位でヤクルトスワローズに入団してからも、日本中に吹き荒れたものだった。



それから40年近い時を経て、甲子園を沸かせるスターが再び出現した。早実の後輩の清宮幸太郎(18)だ。入学当初から「早実に清宮あり」と謳われ、1年生スラッガーとして注目された。1年生の夏の甲子園では、清宮見たさに、殺到したファンで、試合当日の阪神電車が始発から大混乱したほどだ。



高校通算本塁打数111本という史上最多記録を引っさげて、ドラフト会議で1位指名を受けた清宮の、日ハム入団が決まったのは昨年秋。荒木さんが、日ハムのファーム監督に就任したのも昨年11月1日のことだった。



くしくも、2人の早実出身の甲子園のヒーローが、今シーズンから同じユニホームを着ることになったのだ。そのことに触れると、荒木さんはこう言って、照れた。



「いやぁ、年齢的には親子ですからね。彼のお父さん(克幸さん・50)は僕より年下ですからね。清宮からしたら、僕はその辺にいるオッサンじゃないですかね」



これまでも早実野球部のOB会で、挨拶程度だが、顔を合わせることがあったという。



「ちょっとフランクな感じですよ。清宮のほうも緊張して、縮こまってということはない。僕らが、王さんや長嶋さんの前に出たときとは感覚が違うんです。王さんも早実ですけど、さすがに王さんの前では、僕らも手が下のほうにスッと伸びますからね(笑)」



これから清宮は荒木さんが生きてきたプロ野球人生を、一から歩んでいくことになる。



「彼に対しては、プロ野球に慣れてくれればいいなという感じです。最初からポンポン打てればいいけれど、まずは、しっかりと慣れていくことで、のちに、強くなってほしいという思いがあるんだよね」



2月17日、アリゾナ・キャンプを終えた1軍とファームが合流し、かいぎんスタジアム国頭で紅白戦が行われた。紅軍で出場する清宮を目当てに、国頭村の球場に詰めかけたファンは約1,400人。注目度の高さがよくわかる。



「清宮の球場への集客力はハンパない。すごいと思います。ただ、清宮にしろ、斎藤(佑樹)にしろ、早実の後輩だからといって、僕の接し方は変わらない。斎藤にはもうひと花咲かせてほしいと思っていますが、早実の自主性を重んじる伝統のなか受け継がれている精神で、自分で頑張ってチャンスをつかんでほしいですね」



荒木さんは選手の自主性を大切にしている。



「自分で何かを見つけることは大事ですし、このチームの特徴です。選手にあまり声かけしないのは、技術的なことを僕が言ったら、“絶対”になってしまうから。選手の自主性を削ぐことは避けたいです」



清宮には直接、こうアドバイスしたという。



「これまでやってきたことを、そのままやってほしいと言いました。初めからプロの最高水準に合わせようとすると、絶対に自分の力は出せないものです。まず、プロを相手に自分の素でやってみて、空振りしたり、守備で、打球の速さについていけなかったりを経験してほしい。そういう失敗から学べるんです。極端に言えば『どんどん失敗しろよ』ということです」



清宮のプロ野球人生は、まだ始まったばかり。長い目でルーキーの挑戦を見守る荒木さんは、その背中に温かい視線を送り続ける――。

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