「3度目の公演ですが、初演時は舞台の袖で、主演のプレッシャーに押しつぶされそうで足が震えたものです。共演の先輩・山口祐一郎さんが『大丈夫、カッコいいよ』と声をかけてくださって」
こう語るのは、初夏にミュージカル『モーツァルト!』でヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト役を務める山崎育三郎(32)。
『モーツァルト!』の舞台は18世紀のオーストラリア。天才作曲家モーツァルトは自分の音楽的才能にがんじがらめになって、もがき続ける。
「僕は12歳でミュージカル・デビューしてから、子役として舞台やテレビに出ていました。でも、中学3年のころに変声期を迎えて、自分ではどうしようもないつらい日々を送っていました。そんなときに帝国劇場で観客として観たのが、井上芳雄さん演じるモーツァルトだったんです」(山崎・以下同)
作中のモーツァルトの苦悩が山崎自身にもリンクした。
「どう人生を切り開いていくか……迷い苦しみ、才能と葛藤する神童の生き方に感動しました。歌が好きで舞台に立ってきた僕も、声変わりという苦悩に直面したうえ、まわりから歌を褒められた子役時代の記憶と葛藤。体も大きくなって、気持ちとのバランスが取れなくなってきた。天賦の才能が邪魔をして家族も失い孤独になっていくモーツァルトは、それでもあるがまま生きて音楽と向き合い、35年の短い運命を全うするんです。“よし、僕はこれに出演するのを目標にしよう!”と」
夢を見つけた彼は、鬱々とした長いトンネルから抜け出した。
「2メートルの高さからジャンプするシーンで、身につけていたマイクの受信機が僕を受け止めてくれる方の手に当たった反動で肋骨にヒビが入って腫れあがって。痛み止めの薬で3カ月のロングランを切り抜けました」
前の公演から4年。その間に映像の世界やラジオ・バラエティ番組のMCも経験。
「次第にもだえ悩みながら全うする激烈な人生を名曲にのせて、32歳なりの解釈で深く表現しようと思います」