今回はこうした甘い誘惑に乗せられ「多くを失いかけた」友人をもつ日高美優さん(仮名)に、その手口と背景を聞きました。
「儲かる話がある」友人の付き添いで説明会へ
美優さんは、同じ飲食店に勤める奈々さん(仮名)から「儲かる話があるって言われたんだけど、不安だからいっしょについて来て」と頼まれます。「胡散臭いし、危なそう」とは思いながらも好奇心から説明会へ行くことにしました。「説明会といっても、到着したのは個室のある一般的な飲食店。そこには、奈々に声をかけたとされる男性Aと儲け話について教えてくれるという男性Bだけでなく、私たちと同じようにAから声をかけられたという男性Cもいたので驚きました」

「自分たちと同じように、Aの勧誘話に疑問を感じている人の数が多いほうが、奈々の目も覚めやすいんじゃないかと思ったんです。でも、それが間違いでした。説明がはじまって少しするとCは、Bの説明にだんだんと共感しはじめたのです」
「なるほど」を連発、前のめりで説明を聞く“同席者”
Cさんは前のめりで説明に耳を傾け、積極的に質問しては「なるほど……」を連発。その雰囲気に、最初は美優さんと同様に警戒していた奈々さんの様子も徐々に変わっていきます。「このままでは奈々が感化されてしまう」と不安になった美優さんは、質問することに。「商品を人づてに販売していく商法ということだったので、『それって違法なねずみ講じゃないの?』とBに聞いたんです。すると奈々とCを勧誘したAが、Bにかわって『いま、Bが説明してるのはマルチ商法っていって、合法だから安心して』と言うんです」
購買意欲を煽られた友人は、その場で商品を購入
そして、「強制して在庫を持たせることもないし、クーリングオフもできるし、法律違反でもない」と続けましたが、説明が佳境に入ると、「欲しいと言われたときに在庫がないと販売できないため、商品を自主的に購入する人がほとんど」などと購買意欲を煽ってきます。
「サプリ売るヤツだよね? どんな説明受けたの?」
さらに奈々さんは、「どうして美優も買わなかったの?」などと不機嫌になり、どんどんのめり込んでいきそうな雰囲気だったといいます。そしてやがて、自分の働いている飲食店の常連客にまでセールスをはじめてしまった奈々さん。
ほかにも、「勧誘の場には予定外の人が出席していて、最初は不信感を抱いている感じだったのにいつの間にか同調して、自分から在庫を購入するとか言い出さなかった? それで説明している側は『在庫が少ないから』と、急にもったいぶったんじゃない?」と、ズバズバ。
最後には「こういうのは、実はCも最初からグルというパターンが少なくない。C以外の参加者の心理を利用して不安や焦り、在庫の購入を急がせる。単純なパターンだよ」と断言しました。
奈々さんが一発で目を覚ました「常連客の言葉」
そして常連客は、「マルチ商法だと20日以内であればクーリングオフできるといった説明もなかったでしょ? 実は数年前まで、俺も勧誘する側だったんだ。そのせいで、友だちや家族、仕事まで失ってすごく後悔してる」などと告白。これにはさすがの奈々さんも目が覚めたようです。「消費者金融で借金をして、ローンを組んで商品を購入してしまった奈々ですが、常連さんのお陰で友だちや家族、そして仕事を失わずに済んでよかったです。契約や購入を焦らすような場面に遭遇したら、『怪しいかも?』と疑ってみることが大事だと思いました」

<取材・文/山内良子>
【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意。