今回はそんな現実を知り後悔するも、自身の年齢や生活を考えて転職を断念した宮川陽子さん(仮名・40代後半)に話を聞き、アドバイスをもらいました。
素手でのオムツ交換が当たり前っておかしくない?
陽子さんはある日、会社員時代の元同僚H香さん(40代後半)と久しぶりに再会し、「どこかでお茶でも」という話になりカフェへ。そして、いまはお互いが介護施設で働いていることを知り、話はますます弾みます。
陽子さんがその話をすると、H香さんは「え……?」と驚いて眉をひそめ、「それ、大丈夫なの?」「排泄物から感染する病気もあるのに」と心配そうに言われます。その反応に「H香のところは、違うの?」と思わず反射的に聞いてしまった陽子さん。
「介護の現場は常に人手不足だとテレビやネットでもよく見かけるし、問題が報じられることも少なくない。だから、自分の職場が普通だと思っていたのです。でもH香は、『みんな、ちゃんと手袋してるよ』『素手でオムツ替えとか怖い……』とドン引きしていました」
施設によってこんなにも違うの? 自分の普通を疑う
その反応に驚いた陽子さんは、「自分の職場環境が普通ではないのでは?」という疑問が頭によぎったといいます。さらに、「規模について聞いてみると、H香より私が働く施設のほうが大きくて断然知名度もあるのに、どうしてきちんとしてないのかと疑問が大きくなりました」と続けます。「そこで、いままで私が困っていたことについても吐き出してみたのです。たとえば、私の職場は常に人手不足で、夜勤のときは広いフロアを複数階1人で担当することもありました。でもH香は、『1人で複数階も担当してたら、何かあったときに大変そう』と言います」
夜中に奇声を上げる人は「しばらく放置して」
また、「夜中、誰かが奇声を上げてもしばらく放置するよう上の人から指示されるんだけど、利用者さんがかわいそうに思うときもある」など疑問をぶちまけてみたところ、H香は「そんな施設、本当にあるんだ……」と恐怖の目で陽子さんを見つめたのです。
自分だけでも向き合いたいと、心境の変化が
介護の現場で働くようになってから、「自分は絶対に介護施設には入りたくない」と思うようになっていた陽子さんですが、H香さんが働いている施設のようなところもあることを知り、少し考え方が変わったそうです。
転職を諦めた陽子さんはオムツ交換の手袋着用も厳守しつつ、「自分だけでも精一杯、利用者さんに向き合いたい」と考え、行動しているのだとか。
家族の介護施設利用を考えている人にアドバイス
そして、「少しでもよい施設になってほしい」と願う陽子さん。利用者さんご家族に向けて以下のようにも続けます。「余談にはなりますが、家族がよくお見舞いに来て利用者さんを大切にしている様子を施設で見せている場合は、雑に扱われることが少ない印象です。介護施設に家族を預けるときは、なるべくこまめに顔を出し、施設スタッフの様子なども気にしておくことをおすすめします」

<取材・文/夏川夏実>
【夏川夏実】
ワクワクを求めて全国徘徊中。幽霊と宇宙人の存在に怯えながらも、都市伝説には興味津々。さまざまな分野を取材したいと考え、常にネタを探し続けるフリーライター。X:@natukawanatumi5