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世の中には、亡くなってから「クズ男だった」と判明する男性もいるようです。
美保さん(仮名/27歳)の父親は長年単身赴任で、子どもの頃から年に3~4回会う程度の関係性だったとか。
「だから、私は大人になっても父がどういう人かなんて全然知らなかったんですよ。母も働いていたし、多趣味で自分の人生を気ままに謳歌しているタイプだったので、父があまり家に帰ってこないことに疑問を持ってなかったみたいです(笑)。今思えば、金銭的に不自由してなかったことも、気にならない要因だった気がしますね」
そんな父親が急死したという連絡があったのは、3年前の話。心筋梗塞による突然死だったそうですが、その連絡を寄越(よこ)してきたのは、父親と一緒に暮らしているという女性からでした。
父親の急死を伝えてきたのは、父の愛人だった
「ものすごくビックリしました。なんでも、家族団らんで鍋を囲んでいる時に発作を起こしたそうで……。救急車で病院に運ばれたのですが、そのまま死んでしまったとのことです」電話を受けた母親から聞いたところ、女性の声からは深い悲しみと申し訳なさみたいなものが感じられたとか。
「その女性って言ってみれば、愛人なり浮気相手なわけじゃないですか。でも、母いわく何だか言ってることが殊勝(しゅしょう)すぎるし、ちょっとうろたえている感じもあったから、とりあえず会って話をしましょうとなったみたいです」

独身と偽って女性と暮らし「結婚するふり」まで……
「話を聞いてビックリ。父とは4年前に彼女が働いていたスナックで知り合い、そのまま恋愛関係になったそうです。でも、父は自分が結婚していることは告げていなかったみたいなんですよ。愛人さんも婚姻届は書いたそうですが、提出はされてなかったんでしょうね。出生届も父に手続きを一任していたようで、その辺りも上手くやってたみたいです」美保さんの母親は父親と同い年の51歳。自分の娘と然して変わりない年ごろの女性を騙していたばかりか、子どもまで産ませていたなんて……。
驚愕の事実が判明したものの、すでに父親は亡き存在。さめざめと泣いている愛人の姿を見て、美保さんは呆然としてしまったそうです。
母が愛人さんに伝えた言葉が凄かった
「でも、その時の母が凄かったんですよ。『申し訳ありませんでした』と母の方から頭を下げ、葬儀については妻として取り仕切るしお金も出す、と。でも、4年もの間ずっと一緒に暮らしていた彼女とその息子も、私たちと同様に、いえそれ以上に父の家族だったのは間違いない。家族として、父を共に見送ろうと言い出したんです」
「母は父に対して、仕事や趣味で忙しいことを理由に無関心であったことを凄く反省していましたね。ほんと母って自分の楽しみが最優先だったから(笑)。きっと、彼女と出逢う前にも何回か浮気してたんだろうとは思いますけど、母は金銭的に問題がないなら好きにやればいいってスタンスだったから」
「後を追ってしまいそうで心配だったから」
それにしたって、妻と愛人という立場においては珍しい関係性ではあります。「それについて、この前改めて母に聞いてみたんですよ。とにかく最初に会った時の彼女、ほんとに父の後を追ってしまうんじゃないかってくらい弱ってて。子どもを残して死んだり、もしくは一緒に無理心中も有り得るかもって考えたらしくて。『そんなことされちゃ夢見が悪いから』って冗談めかして言ってましたけど。母なりに、父に対するお詫びの気持ちがあったんじゃないかな……」
美保さんもクズな父親だとは思ってはいるけど、異母弟が可愛くて懐いてくれるのが嬉しいからそれでチャラだと笑っていました。クズ男が繋いだ新しい家族の形といったところでしょうか。
<文/もちづき千代子 イラスト/とあるアラ子>
【もちづき千代子】
フリーライター。