食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、食トレンド、スーパーマーケットやスタバ、ダイエットフード、食育などの情報を“食の専門家”として日々発信しています。


 食パン専門店、唐揚げ専門店に続き、なんと! 「焼肉店」の倒産が相次いでいるようです。帝国データバンクによれば、2024年度に発生した焼肉店経営業者の倒産数(負債1000万円以上、法的整理)は55件。

 これは前年度の27件から倍増となり、これまでもっとも多かった2019年度(28件)を上回って過去最多を更新しています。個人営業など小規模店の閉店や廃業を含めれば、実際はより多くの焼肉店が閉店・廃業していると考えられます。

背景は「焼肉離れ」ではなくライバルの出現か

焼肉店の倒産が過去最多。食べ放題、ひとり焼肉が人気と思いきや…背景に“ライバル”の存在が
焼肉店の倒産件数 推移(帝国データバンク リリースより)
 焼肉といえば、多くの人があこがれる定番人気料理。最近では“食べ放題”や“ひとり焼肉”といったコンセプトが人気となり、ますます盛り上がっているかと思いきや、どうやら実態はそうではないようです。

 私はこの状況について、食トレンドやスーパーマーケットなどを研究する立場として、消費者目線を重視しながら、具体的に掘り下げたいと思いました。そしてある結論に至ったのです。

 それは、焼肉離れが起こっているわけではない。原材料価格の高騰下において“もっとも脅威になるライバル”が現れているということ。一体どういうことなのか、さっそく話をはじめていきたいと思います。

スタバの10倍! 焼肉店は多すぎる

焼肉店の倒産が過去最多。食べ放題、ひとり焼肉が人気と思いきや…背景に“ライバル”の存在が
日本には焼肉店が約2万件もあるという。そんなに多かったの?と驚くばかり
 まずは飲食業界における焼肉店がどれほどの存在感、規模を持っているのかについて客観的に整理をしてみたいと思います。

 日本マーケティングリサーチ機構の記事によると、日本には焼肉店が約2万2000軒存在すると推計されています。そのうち焼肉チェーン店は3000店弱。
焼肉店は飲食業界における3%を占めていることがわかります(※これらの数値について詳細を精査するのが目的ではありません)。

 ここで他ジャンルと比較をしてみましょう。日本におけるスターバックスは2021店舗(2025年5月時点)、マクドナルドは2987店舗(2025年4月末時点)。なんと、スタバの10倍、マックの7倍も焼肉店が存在するのです。

 コーヒーやハンバーガーを外食やテイクアウトで求める頻度と、焼肉を食べに行く頻度を想像してみてください。焼肉は多い人でも2週に1度、1か月に数度というのが現実的ではないでしょうか? 毎週毎日焼肉が食べたいと願っても、価格は決して安くはありませんから、家計面で実現できない人も多いはずです。

 つまり需要(消費者)と供給(焼肉店)のバランスを考えた場合、そもそも焼肉店が多すぎるというのが冷静なとらえ方であり、均衡をとるための淘汰がはじまっていると考えることができるのです。

牛肉価格の高騰、日本人の大半が生活苦に……

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高級焼肉店で上ロースを注文すると、1皿2000円以上になる
 加えて現代における日本人の食生活をみていくと、さまざまな物価上昇に賃金の伸びが追いつかず、食費が家計を圧迫している状況に陥っているのは、多くの人が実感をするところではないでしょうか。

 2024年度に厚生労働省が発表した国民生活基礎調査の結果において、生活が「苦しい」と回答した世帯は59.6%。このうち育ちざかりである18歳未満の子どものいる世帯では65%にものぼる結果でした。

 つまり多くの人々が生活苦を痛感していて、その中で国産のみならず輸入牛肉もこぞって価格高騰しているのですから、“財布のヒモを緩めて、気軽に焼肉を食べに行こう”という発想にはなりにくいのです。

実は「おうち焼肉」のレベルが上がっている

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おうち焼肉は最強の節約に。焼き加減をマスターすればおいしく食べられる
 焼肉店倒産という事実は、消費者からすると必ずしも悲しいことであるかはわかりません。むしろ家計節約の救世主という観点から、“スーパーマーケットにおける精肉レベルの進化”は、見逃せないトピックスと言えます。

 わかりやすく言えば、おうち焼肉のレベルが格段に上がっているということ。
実は牛肉を一頭買いするスーパーが増えていて、“肉がいいスーパー”に注目が集まるようになっています。

 例えば、テレビやネットニュースでもたびたび話題になるロピアやオーケーは、牛肉が自慢。ロピアでは4等級のオリジナルブランド「みなもと牛」などの牛を一頭買いし、希少部位までリーズナブルな価格で提供しています。

 オーケーでは歩留等級A、肉質等級4または5に格付けされた和牛 (黒毛和種) を、 一頭単位買い付けすることでより安価に販売することを強みにしています。

 この流れは他スーパーでも同様で、「肉が安くてウマいスーパーが令和の勝ち組スーパー」と言われるほど、スーパーにおける精肉レベルの向上には目を見張るものがあるのです。加えてスーパーのPB商品を中心に、コスパを重視しながらも、おいしい焼肉のタレが目立つようになっています。

調理家電も着実に進化している

焼肉店の倒産が過去最多。食べ放題、ひとり焼肉が人気と思いきや…背景に“ライバル”の存在が
先日訪れたスーパーでは、オリジナルブランド牛のおいしさに驚いた(撮影:ベイシア 西部モール店)
 さらには、焼肉を焼くための調理家電も進化しています。煙の出にくい家庭用の無煙ロースターや、プレートの洗いやすさにこだわった商品が続々登場することで、おうち焼肉は着実な進化を遂げています。

 日本ならではの焼肉を愛する食文化は、時代とともに廃れているわけではありません。むしろ自宅でおいしい焼肉が食べられるようになっています。つまり、わざわざ外に食べに行く焼肉店には、価格競争に陥らない付加価値を追求していくことが今後ますます求められるでしょう。

 そういう点でもこれからの焼肉店の進化に注目をしていきたいところです。


<取材・文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>

【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12
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