気付いたときには妊娠16週(5か月)の安定期で、突然ママになったフリーライターの私。

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 もともと生理不順で3~4か月生理が止まるのは珍しくなかったこと、ADHD(注意欠如・多動性障害)の特性でセルフネグレクト癖があり自分の体の管理がおざなりになること、そこに算数LD(数字、計算に困難を抱える学習障害)で生理周期を把握していなかったことが加わったトリプル要因により、妊娠に気づくまでここまで時間がかかってしまった。


いきなり16週の妊婦に

37歳で想定外に妊娠した私が区役所で「経済的な不安」を伝えると“まさかの対応”
妊娠が判明したときにもらったエコー写真
 数年前に子宮がん検診で婦人科にかかった際に医師に言われた「無排卵状態なので自然妊娠は難しい」という言葉と、一般的には妊娠しづらくなってくる37歳という年齢もあり、避妊せずに過ごしていた。ある朝、尿が出ない症状で泌尿器科を受診して超音波検査でお腹を診てもらったところ、モニタに映ったのはまさかの赤ちゃん。医師は「妊娠してるじゃないですか!」と驚き、私も頭が真っ白になった。

 泌尿器科を出て慌てて夫に「おしっこが出ない理由わかった。妊娠してた」とLINEすると、出勤途中の夫からすぐに電話がかかってきた。第一声は「育てていくお金、どうしよう!」だった。

 私はお金のことまで頭が回っておらず、自然妊娠できないと言われていた自分の体が妊娠したという驚きと、子どもはいらないと思っていたのにいざ妊娠がわかるとなぜか込み上がってくる喜び――これを母性と呼ぶのだろうか――そして実感のなさで、感情が入り乱れてよくわからなくなっていた。

 一旦帰宅し、スマホで近所の産婦人科を探して受診した。内診とエコー検査により既に16週に入っていると医師から告げられた。しかも、予定日は私の誕生日である9月7日。我が子と同じ誕生日になる可能性もあることにときめきのようなものを感じた。

 診察終わりに医師から「この足で区役所に妊娠届を出してきてください」と言われた。恥ずかしい話、妊娠したら役所に届け出をしないといけないことを、このとき初めて知った。


区役所でのやりとりに不安が募る

 区役所に行き案内係の人に「妊娠届を提出したいのですが……」と尋ねると、子ども総合相談窓口に案内された。初めて行く窓口だ。他の窓口とは違い、ふわふわ素材のマットが敷かれたキッズスペースが設けられていて、小さな子どもたちが甲高い声を上げて遊んでいる。私もこんな子どもを産むことになるのか……と思いながら待っていると番号を呼ばれた。

 職員に言われた通りに用紙に記入し、簡単なアンケートにも答えた。その中に「出産において不安なことはないか?」といった設問があり、そこで夫が電話口で言っていた金銭的な不安が浮かんだ。

 夫婦二人で暮らすと決めた部屋だったのと都心のペット可物件ということもあり、高めの家賃を払っている。二人で働いているなら払える額であるが、フリーランスである私が出産や育児により思うように働けなくなるとその分収入が下がる。ここでようやく“家賃を払っていけるのか問題”に気づいたのだ。引っ越すお金も今すぐ用意できるわけではない。そこで「経済的な不安」に丸をつけた。

 するとアンケート用紙を見た職員から「経済的な不安というのは具体的にどういうことですか?」と聞かれた。

「ええと、妊娠を予定していなかったので高めの家賃の部屋に住んでいるんです。
それが払えるかどうか不安で……」
「今、ギリギリの状態ですか?」
「え……いえ、今ギリギリというわけではないのですが、私がフリーランスなので漠然とした不安があり……」
「では大丈夫ですね」

 なぜか職員はあっさりと言い、私が丸をつけた「経済的な不安」にバツをつけた。そこはもう少し考えてくれよ、水際対策とはこのことかと若干不信感が残った。

大量の書類を順に説明されるも記憶できない

37歳で想定外に妊娠した私が区役所で「経済的な不安」を伝えると“まさかの対応”
母子健康手帳
 突然の妊娠で思考が止まっている状態だ。マタニティマークと共に大量の書類やパンフレットを渡され、さらに懇々と説明されてもあまり耳に入ってこなかった。

 それよりもこの書類の量に面食らっていた。ADHDの特性で、大量のモノを目にすると優先順位がわからなくなる。ワーキングメモリ(脳内のメモ帳)も低いため、順番に口で説明されても、途中で最初の書類は何だったのか思い出せなくなる。記憶がポロポロこぼれ落ちていくのだ。

 職員の説明を一通り聞き(ほぼ右耳から左耳を突き抜けていったが)、区役所を後にした。

 帰宅後、先程の電話では金銭的な不安を訴えていた夫から「新しい家族を迎える準備をしよう」とLINEが入っていた。前向きに考えてくれたことに安心した。今まで夫婦別々の財布で家賃や光熱費、食費や生活費は折半。残ったお金はそれぞれのお小遣いだった。


 浪費家の夫は給料全部を毎月使い果たして貯金をしていなかったが、私にはわずかだが貯金があったのと浪費家ではないので(使うのが怖い派)、急に出費がある際は私が立て替えていた。

 そんなガバガバな財布事情から一転、夫はお小遣い制にすると言い始め、今後子どものためにかかるお金を計算してくれていた。私には算数LDがありお金の計算が苦手なので夫が頼りになる。

会社員の夫は育休が取れるとわかり、少し安心

 さらに夫は6か月間の育休を取ると言い始めた。私の両親は宮崎県在住で遠い上、昨年母が脳梗塞になってしまい後遺症が残っていてじゅうぶんに体が動かない。義父は既に亡くなっており義母は横浜に住んでいるものの、持病があり育児のサポートはできない。そのためワンオペ育児を覚悟していたが、夫の職場で育休を取る男性が増えており、会社側としても男性社員の育休を推奨しているとのことだった。

 また、今年法改正があり、一定条件を満たせば育休中も、実質手取りに近い給付が受けられると知り、少し安心した。私はもう長いこと会社員でないため福利厚生について考えたこともなかったが、こんなとき会社員だとメリットが大きいのだと実感した。

 両親にも妊娠の報告をすると喜んでいた。おそらく東京に出てずっと帰ってこない一人娘がやっと結婚したがこの年齢だから、もう自分たちは孫の顔を見られないと思っていたのであろう。経済的な不安に関しても「祖母が貯めていたお金があるので心配しなくていい」とのことだった。経済的な不安が軽くなり、心から安堵した。


ADHD治療薬は飲むのをやめた

37歳で想定外に妊娠した私が区役所で「経済的な不安」を伝えると“まさかの対応”
現在、妊娠7か月のお腹
 現在、妊娠7か月に入った。妊娠に気づいたときはまだ、ただ太っているだけの見た目だったが今はお腹がさらに大きく重くなり、どこからどう見ても妊婦だ。マンションのエレベーターでお年寄りの女性と一緒になるとニコニコ顔で「おめでた?」と聞かれることもある。

 妊娠発覚までADHDの薬を飲んでいた。ADHDの治療薬には主にインチュニブ、ストラテラ、コンサータの3種類があり、どの薬が合うかは個人差がある。薬を飲むことで眠気や先送り癖、多動などの困りごとが軽減され、仕事や日常生活がスムーズにいく反面、クリエイティブな仕事をしている人はアイディアが浮かばなくなったと訴える人もいる。

 そのため薬を飲まないほうが自分らしくいられると飲まない選択をするADHD当事者もいる。私はコンサータを飲むと集中して調べ物や原稿執筆ができたので飲んでいたが、この薬は妊婦には推奨されていないと主治医に言われて妊娠発覚後は飲むのをやめた。

 また、発達障害はその生きづらさからくるうつ病や不安障害、双極性障害、不眠といった二次障害がある場合が多い。私も双極性障害Ⅱ型とパニック障害、不眠に悩まされていたので精神薬や安定剤、睡眠薬を飲んでいた。これらも妊婦にはよろしくない薬だという。それまで1日20錠近く飲んでいた薬を突然断薬すると精神的負担が大きいため、主治医の指導のもと少しずつ減らしていき、今は寝る前に睡眠薬を半錠にまで減らせた。

 ライター仲間でも発達障害の二次障害でうつ病を患っている人を知っているが、妊娠してからも主治医と相談のもと、母体の安全を優先してうつ病の薬を飲んでいたという。
妊娠中の薬の服用にあたっては、医師とよく相談する必要がある。

コンサータをやめて特性に悩まされるように

 人によってADHDの特性はそれぞれだが、私の場合脳内に情報が多すぎてうまく優先順位をつけられず、どれから手をつければいいのかわからなくなった結果、先送り癖が発動したり、脳疲労からくる眠気につながったりする。

 現在はコンサータを飲んでいないため、それらの特性に悩まされてはいるが、主治医に「妊娠なんて人生で何度も経験するわけではないから、くれぐれも無理のないように。今だけは妊婦特権を最大限使っていい」と言われ、仕事も家事も完璧を求めず無理のない範囲でやっている。

 しかし、赤ちゃんを迎え入れるにはやらなければならないことが多い。ベビー用品も用意するものがたくさんだし、部屋も片付けないといけない。ADHDの特性で情報の整理ができないときは、ToDoリストを書き出して対処している。

 今、暇があれば育児に関するYouTubeチャンネルを見ていろいろと勉強中だ。特に赤ちゃんの1日ルーティンはおもしろい。新生児、3か月、6か月、10か月で全然違う。今まで「赤ちゃん」は「赤ちゃん」ひと括りで、生後何か月だとか意識したこともなかったが、月齢によって授乳回数や表情、発達もまったく違う。

 だいたい5か月頃から離乳食を開始することも初めて知った。3歳頃までの子どもの食事は基本的に大人より薄味が推奨されていることも知らなかった。
今までの自分は子どもに関心がなさすぎた。

精神科のある総合病院で出産することに

 今、少子化により分娩できる病院が減っており、最初にかかった病院は産婦人科を掲げているものの分娩は取り扱っておらず、20週に入ったら分娩できる病院に紹介状を書いてくれ、転院することになっていた。いくつか病院の候補を挙げられ、その中で一番自宅から近い病院は総合病院だったため、そこの紹介状を書いてもらい転院した。

 そこで無痛分娩を希望したのだが、9月の無痛分娩の予約がもう全部埋まっており、自然分娩するしかなくなった。今後の健診のことを考えるとやはり自宅から近いほうがいいし、総合病院には精神科も入っているので私の場合はそのほうが安心ではないかと最初にかかった産婦人科医から言われた。

 でも、無痛分娩ができずに痛いの嫌だなぁと思いながらSNSで出産レポ漫画を読んでいたら、どのお産も壮絶過ぎて怖くなり、検索するのをやめた。超安産で痛みを感じる間もなく私を産んだ母からは「あなたは小学生の頃骨折したときも痛がらなかったし痛みに強いほうだから大丈夫」と言われたものの、やはり怖い。母親と同じく、超安産であることを願っている。

 産後うつになったらどうしよう、学資保険どうしよう、保育園と幼稚園はどちらに通わせるべきなのか……と産んだ後の不安もつきない。また、手がかかる子なのかおとなしい子なのか個人差が大きいため、どんな子なのか産まれてみないとわからない。今はただ、我が子を迎え入れる準備を進め、会える日を待ち望んでいる。

<文/姫野桂>

【姫野桂】
フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。Twitter:@himeno_kei
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