眠れないほど怖いミステリーゲームにハマる
美容師で独身の笠原梨乃さん(仮名・30歳)は一時期、『かがみの特殊少年更生施設』というゲームにハマっていました。少年院を舞台とした、実在するWebサイトを調査する無料のミステリーゲームです。「ネットで“プレイヤー数が3日間で5万人を突破した人気ゲーム”と話題になっていたんです。それでYouTubeで公開されているチュートリアル動画を観たらすごく興味を惹かれてしまい、やり始めたら止まらなくなってしまったんですよね」

「要するにその少年院の闇を探っていくという内容なのですが、それがとにかくめちゃくちゃ怖いんですよ。ゲームを進めている時は夢中になっているしアドレナリンが出ているので大丈夫なのですが、夜寝る時に真っ暗な部屋でふとその内容を思い出すと、もう怖くて仕方がなくなって眠れなくなってしまうんですよね」
ちょっと苦手な、ノリが軽くてチャラい後輩
それでもゲームが面白くて仕方がなく、どうしても止めることができない梨乃さんは、寝不足気味な毎日を過ごしていました。「そんなある日、お昼休憩の時にご飯も食べずにバックヤードで目を閉じていたら、ふと通りかかった後輩の健一くん(仮名・27歳)が『なに寝てるんすか(笑)』と声をかけてきたんです。それで、なんの気無しに寝不足の理由を話したんですよ」
すると健一さんは笑顔になり『マジすか、バリ面白そうじゃないすか? 自分ゲーム得意なんで一緒にやらせてくださいよ』と思わぬ提案をしてきたそう。
「健一くんが悪い子じゃないのは分かるんですが、ちょっとノリが軽くてチャラいというか……。正直、長い時間話していると疲れてしまうので、若干の苦手意識を感じていたんですよね」
「実家暮らしなんで、両親も俺も超ウェルカムっすよ」
さらに健一さんは「いいじゃないすか! 今日の帰りに家に来てやりましょうよ」と馴れ馴れしく誘ってきます。梨乃さんが引いていると「あ、俺実家暮らしなんで、変な心配しなくて平気っすよ」と言われて、思わずひっくり返りそうになってしまいました。
めちゃくちゃ居心地のいいお家
梨乃さんは「このチャラさがもしかしたらあのゲームの怖さをいい感じで緩和してくれるかもしれないし、お家にご両親もいるのならなおさら安心できるな」と思ったそう。「健一くんのお家に着くと、さっそくノリの良いご両親が手作り餃子をホットプレートでいっぱい焼いて歓迎してくれて、びっくりしてしまいました。ですがあれこれ詮索してくるわけでもなく、いい感じで放っておいてくれてたしかに居心地がいいなと思いましたね」

「私以上にゲームにのめり込み、しかもめちゃくちゃ怖がる健一くんに笑ってしまいました。あまりに怖すぎるから、お父さんお母さんが頻繁に通るリビングでやろうと場所を移動したりして、何だか楽しかったんですよ」
難易度の高いゲームで、八方塞がりになった時
それ以来、頻繁に健一さんの家に行きゲームを進める日々が始まりました。「一緒にメモを取りながら謎を解いていると、学生時代に初めてできた彼氏と一緒に宿題をしている時みたいだなと、ひとりでエモい気持ちになったりしましたね」
ですがこのゲームはかなり難易度が高く、途中で壁にぶち当たり八方塞がり状態に陥ってしまったそう。
「私はもうゲームの続きが気になって仕方がなかったので『もうYouTubeのネタバレ動画を見てスッキリしちゃおうよ』と健一くんをそそのかして、ゲームを途中で投げ出そうとしたんですよ」
するといつもはヘラヘラしている健一くんに「せっかく一緒にここまで頑張ってきたんだから、時間がかかっても最後までやりぬかないと」と真面目な表情で言われてしまい、安易に楽な道を選ぼうとした梨乃さんは自分を恥じました。
「健一くんて結構しっかりしているし、頼り甲斐があるなと思ってしまいました。そしたらさらに『それにゲームが終わっちゃったら、もう梨乃さん、家に来てくれなくなるでしょ?』とはにかんだ笑顔で言われて、えー! それってどういう意味? と、急に彼を意識するようになってしまって」
その後、お母さんから聞いた「意外な真相」
そして結局は梨乃さんから告白するかたちで、2人はお付き合いをするようになったそう。「付き合うようになってからお母さんに『実は、梨乃ちゃんが初めてこの家に来る時ね、健一に、俺の好きな子が来るからよろしくねって言われていたのよ。上手くいって本当に良かったわ』と言われて、嬉し恥ずかしい気持ちになってしまいました」
ちなみに、まだゲームはクリアできていないそうです。
<文/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。