渡辺典子さん(仮名・40歳)は2ヶ月前、15年を共にした愛猫を亡くしました。20代の頃から苦楽を共にした愛猫を、ちゃんと弔ってあげたい。そう思い、思い出を築いた自宅に移動火葬車を呼び、個別火葬をしようと決断しましたが、義父は“ありえない言葉”で典子さんの想いを踏みにじりました。
バツイチ男性と結婚して義父母と「敷地内同居」をすることに

大地さんが建てた一軒家は土地の所有権が大地さんの父親であるため、売ることができません。典子さんは交際前、「結婚後は敷地内同居になるけど大丈夫?」と大地さんから聞かれたそうです。
「二世帯住宅だったら嫌でしたが、敷地内同居ならある程度の距離感は保てるだろうと思ったので、あまり気にしませんでした。それに、なにより夫のことが好きだったので付き合わないという選択肢が自分の中にありませんでした」
2人は、交際開始から2年後に結婚。結婚後、典子さんは20代の頃から一緒に暮らしてきた愛猫ミユちゃんと共に大地さんが建てた一軒家で暮らし始めました。
愛情を注いできた愛猫も新居へ…3人過ごした幸せな日々

大地さんは猫と暮らした経験がなかったため、最初の頃はおっかなびっくりな様子でミユちゃんと触れ合っていましたが、やがて、大の猫好きに。
「義父母たちも動物と暮らした経験はなかったようです。ただ、義母はなんとなくミユのことが気になるようで、たまに顔を合わせると『この前、窓から顔を覗かせてたよ』など、かわいかった姿を報告してくれました」
子どもを望んでいなかった典子さん夫妻はミユちゃんに癒され、笑顔をもらいながら3人で幸せな結婚生活を満喫していました。
15年を共にした愛猫が逝去…義父が放った“ありえない一言”とは?

「ひとりで天国に逝かせてしまった……と、すごく自分を責めました。最期、一緒にいられなかった分、できるかぎりの弔いをしてあげたいと思いました」
そこで、愛犬を亡くしたことがある友人に利用してよかったペット葬儀社を尋ね、希望する葬儀の仕方や日にちを細かく決めていきました。典子さんが選んだのは、環境に配慮したペット用の移動火葬車を自宅に呼んでの火葬。一緒に暮らした自宅で、天国に逝かせてあげたいと思ったのです。
「当日は、自宅前に移動火葬車を停めて火葬を行うことになりました。そういう事情は義父母にも話しておいたほうがいいと思ったので、説明しに行きました」
すると、義父が真っ先に気にしたのは火葬代。「お義父さんたちに負担はかけませんので……」と前置きし、典子さんが火葬代を伝えると義父は「畜生に、そんなにも金をかけるなんてもったいない! そんな使い方をせず、他のことのために貯金をしなさい」と怒鳴ってきたのです。
動物の命への価値観は様々だけれど、そこまで言わなくても……。そう苛立った典子さんは、「他のことって、例えばどんなことですか?」と義父に質問しました。
「そしたら、義父は『例えば、不妊治療とか。子どもができないんだろうから、検査費や治療費に回せばいい』と。私たちが望む結婚生活の送り方や未来を自分の想像で決めつけないでほしいと思いましたね」
結局、義父の理解が得られなかったため、典子さんは移動火葬車での火葬を諦め、ペット葬儀社にミユちゃんを連れていき、火葬を行いました。ただ、3人での思い出が詰まった自宅で弔ってあげられなかったことへの後悔は未だ消えません。
動物の命に対する価値観は人それぞれで当然ですが、最期まで小さな家族を想う気持ちを汲む努力はできるはず。人間だけでなく、動物の弔い方の自由も尊重される社会になってほしいものです。
<取材・文/古川諭香>
【古川諭香】
愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。3匹の愛猫と生活中の猫バカライター。共著『バズにゃん』、Twitter:@yunc24291