批判の目にもさらされていた少女時代
のぶの支持率の低さについて語るうえで、まずは幼少期から振り返る必要がある。その男勝りな性格から“ハチキンおのぶ”というニックネームをつけられていたのぶ。朝田家ではわんぱくさを強く咎められるシーンはなかったが、学校などではあまりいい顔をされていなかったことがうかがえる。また、パン食い競争に嵩(北村匠海)の代走として飛び入り参加して見事に1位を獲得したものの、女性に参加資格がなかったことを理由に1等賞の賞品であるラジオをもらえなかった。なにより、1位に輝いたものの、周囲からは冷めた目で見られるなど、自慢の脚力を披露して褒められることはなく、むしろ批判の目にさらされる場面も。
家族や友達には恵まれていたが、世間からは必ずしも歓迎されている存在ではなかった。そんなのぶだったが、戦地で戦う兵隊のために慰問袋を作ることを思い付き、女子師範学校の学友たちに提案する。この活動が写真付きで新聞に載ったことを受け、のぶは“愛国の鑑(かがみ)”として世間から見直されるようになった。
世間に認められ、お国のために真っ直ぐに
パン食い競争で1位になるほどの走力、快活な性格など、自身の長所をことごとく世間から否定されてきたのぶだからこそ、この手のひら返しには高揚したのではないか。ようやく“世間様”に認めてもらったことの安心感や興奮を抱き、そして「この期待に応えたい」、もとい「もう昔には戻りたくない」という意識が芽生えたように思う。
多くの視聴者が持っている「のぶと同じ要素」
また、のぶが支持されない理由として「同族嫌悪」も挙げられる。のぶは大半の人々と同じく、世間の空気に流されて軍国主義に染まった。当時ではごく当たり前のことなのだが、それが私たち現代人の感覚では、ドストレートに言えば主体性がないように映ってしまう。
同じ視点に立ってみると、責める気持ちは消え去る
とはいえ、常に戦争に異を唱え、自分軸を持っているヒロインは勇ましくカッコいいかもしれないが、実際のところ真似はできない。つまり、空気に流されながら周囲からの承認を得ようと努力するのぶは、最も視聴者に近い存在と言える。のぶは長い間、戦時中の異常な空気感に飲み込まれ、戦争が愚かな行いであると疑う発想がなかった。より正確に言えば、蘭子や嵩、草吉(阿部サダヲ)の発言から戦争への違和感を抱く瞬間もあったが、疑うことから必死に目を背けていた。
この辺りものぶの評判を落とした理由ではあるが、私たちも同じ時代を経験した場合、お国の判断を疑えるか。仮に疑えたとしても「戦争反対」と声を上げられるか。筆者は間違いなく無理だ。
戦時中ののぶの言動には眉をひそめたくなるが、同じ時代にいたら自分たちもきっとそうなっていたのだ。のぶは自身と置き換えやすく、いざのぶ視点に立ってみると、のぶを責める気持ちは消え去る。のぶに自分を重ねる人が増えれば、のぶに対する評価は大きく変わっていきそうだ。
等身大のリアルな人間を映し出す“稀有なヒロイン”
結局のところ、本作におけるのぶというキャラは“ヒロイン”というよりは、当時を生きていた人の等身大のリアルを映し出す“鏡”なのだろう。鏡は嫌な部分も嘘偽りなく映すため、のぶにある種の嫌悪感に似た感情を持ってしまうのも無理はない。視聴者が戦時中の彼女に反感を抱いた時点で、のぶのキャラ作り、そして今田美桜の役作りは大成功だと言えるのではないか。6月23日から第13週「サラバ 涙」が始まった。戦争は終わったものの、戦争の悲惨さを経験し、子どもたちに「お国のため」を正解とする教育をしてきたことへの罪悪感から教師を辞めたのぶ。悲しみや後悔など戦争によって生まれた様々な感情とどのように向き合い、どのように軍国主義に染まった価値観を再編成するのか。
27日に放送された第65回では「高知新報」の採用面接で、軍国主義に浸っていた過去を悔いており、徐々に自分自身の“正義”を探していく姿勢を見せた。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki