作者のうみの韻花(おとか)氏は本作を制作するため、実際に複数の港区女子に取材をしたという。港区女子という言葉ばかりが有名になり、その実態は依然として謎が多い。港区女子の取材を通して感じたことなど、話を聞いた。




取材では、怖くて深掘りできなかった話も
まず、うみの韻花氏が取材する中で一番記憶に残っているギャラ飲みのエピソードとして「1対1で食事をするだけで毎回50万円をくれる人がいたそうです」という。「徐々に仲良くなってから金額が上がったわけではなく、最初から50万円みたいです。しかも別にいやらしいこともなく、ただただ食事するだけで。その方は4回ほど食事して200万円ほどもらったそうなのですが、お金の出どころもよくわからず、“良くないお金”の可能性もちらついて、だんだん怖くなってきて会うのをやめたそうです」
時給換算すればとんでもなくコスパの良い仕事ではあるが、リスクも少なくないようだ。
「取材した人の知り合いの話なのですが、六本木のバーを貸し切って男女ともに複数人で飲んでいたそうです。ただ、女性のお酒の中に睡眠薬を入れられて眠ってしまい、目を覚ますと“そういうこと”が行われていたそうです。その知り合いの人は無事だったそうですが、それ以上は怖くて深掘りできませんでした」
セクハラ加害者が、野放しにされやすい理由
その怖さが見えてきたが、比較的安全にギャラ飲みをする方法もある。ギャラ飲み専用アプリを利用すれば相手の素性もわかり、またギャラもアプリ経由で支払われるため、お金に関するトラブルも回避できるという。うみの氏は「個人でグループチャットを作って女性を募集する、みたいな場合だとトラブルに発展しやすいようです」と話す。とはいえ、その“トラブル”の中には、一般常識で言うところのトラブルは含まれないようだ。
「漫画ではあまり描きませんでしたが、キスされたりお触りされたりなど、セクハラは日常茶飯事みたいです。
仮に通報してそのセクハラ加害者を断罪できても、次に出会う人間もまたセクハラ加害者の可能性が高い。通報するのが馬鹿馬鹿しくなり、結果的にセクハラ加害者が野放しになっているのかもしれない。
ギャラ飲みにおける敵が「女性」の場合も
ちなみに、ギャラ飲みにおける敵はセクハラ加害者だけではないという。「アプリでギャラ飲みに参加した場合、先ほど話した通りアプリ経由でギャラが振り込まれます。ただ、たまにチップ的な感じで現金を手渡ししてくれる人もいるそうです。とはいえ、直接のお金の受け渡しをNGにしているアプリは少なくありません。
ですので、仮にお金を直接もらった場合、一緒に参加した女性に『直接もらっちゃった』とポロっと言ってしまうと、アプリにチクられて退会させられるケースもあるのだとか。だから、その時には『誰にもバレないように絶対に隠さないといけない』と話していました」
ギャラ飲みでもらえる金額は破格ではあるが、精神的にはかなりしんどい“仕事”なのかもしれない。
港区女子の転落は自業自得なのか?
最後に『人生もっとうまくやれたのに 港区女子の絶望と幸せ』に込めた思いを聞く。「港区女子が転落する様を『自業自得』と言う人もいるかもしれませんが、私も多少なりとも共感する部分はあります。ただ、その背景には、貧困問題、地域間格差、『若さ』が過剰に持ち上げられる現代の価値基準、ルッキズムが叫ばれている時代に逆行して支持されている外見至上主義、といった要因が少なくありません。そういった現代の歪みを、美春の歩みを通して考えてもらえると嬉しいです」
実は港区女子が生まれる背景には、私たちが日々感じている生き辛さが影響しているのかもしれない。『人生もっとうまくやれたのに 港区女子の絶望と幸せ』が、そのことに気付く機会を与えてくれそうだ。
<取材・文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki