今回は、そんな苦手だった相手との関係が一変してしまって女性のエピソードをご紹介しましょう。
ムスッとして苦手な先輩と、憂鬱な外回り
会社員の松原紗希さん(仮名・29歳)は、同じ部署の先輩・永田勇人さん(仮名・33歳)のことが苦手でした。「とにかく無愛想でいつもムスッとしていて話しかけづらいんですよ。
そんなある日、永田さんと2人で外回りに行くことになったそう。
「気をつかうし憂鬱(ゆううつ)だなと思いましたが仕方ないので。とにかくスムーズに仕事を終わらせることだけを考えていましたね」
「キャー!」お気に入りの日傘に事件が
季節は夏。取引先から駐車場へ戻ろうと外に出ると日差しが強かったので、紗希さんはバッグから雨晴兼用の折り畳み傘を取り出して慌ててさしました。「そしたらいきなり突風が吹いて、私のお気に入りの傘がひっくり返りあっという間に変形してしまったんですよ」

「すると永田さんが『あぁ、骨が折れて完全に壊れてしまってるね』と残念そうに呟いたので、私はその意外な反応に『え?』と不思議な気持ちになってしまって」
すると今度は「もし嫌じゃなければ僕が直せるけど……」とモジモジしながら消え入りそうな声で言われ、紗希さんは驚いてしまいました。
家に傘修理の道具が揃っている、意外な理由
「話を聞いてみたら、永田さんは若くして父親を亡くしていて、『取り返しのつかないことってこんなにいきなり起こるんだ』と気づかされ、それまでのお父さんとの時間の過ごし方を後悔し苦しんだそうなんです。その反省からお母さんとのコミュニケーションを大切にするようになって、今はかけがえのない時間を悔いなく過ごすよう努力しているとか。すると、お父さんには気恥ずかしくてできなかった親孝行も、素直にできるようになったそうで」
ある日、猛暑を乗り切るためにとお母さんが永田さんに自分とおそろいの日傘を買って、プレゼントしてくれたんだそう。

「『だから道具も部品も一通り揃っているし……ていうかこんな自分語りを長々としてごめんね。これって何かのハラスメントに当たるかな?』と申し訳なさそうに話す永田さんを見て、『もしかしたら今まで無愛想だったのは、私にハラスメントしないように過度に気を配った結果だったのかも?』とハッとしました」
修理代をかたくなに受け取ってくれない先輩
「そして傘が壊れたということでいきなりスイッチが入った永田さんが、素直な気持ちを話してくれたことがとても嬉しかったんですよね。今までずっと怖い人だと思い込んでいたのでギャップ萌えといいますか、好感度が急上昇してしまって」そして数日後、永田さんは紗希さんの傘を綺麗に直すと可愛い紙袋に入れて返してくれたそう。
「私が修理代を払うと言ってもかたくなに受け取ってくれないので、次に外回りに行った時に強引にカフェに連れて行き『どうしてもお礼がしたいから好きなものを食べてほしい』とお願いしたんですよ」
すると永田さんはいちごパフェを注文し、紗希さんはまた新たな永田さんの一面を知ることができて嬉しくなってしまいました。
「見たことない幸せそうな顔でパフェを頬張る永田さんを見て、よっぽど好きなんだなと私まで幸せな気持ちになってしまって」
私の前でだけ、日傘を使う先輩にときめいて
そして紗希さんと一緒の時だけ、永田さんがお母さんとお揃いの日傘を使うようになってくれたことにキュンとしてしまい……。「出社の時やお昼休みに外を歩く時は使っているのは見たことないので、もしや私に気を許しているってこと? と気がついた時には、もう彼に恋をしていましたね」
そのようにして紗希さんが永田さんにアタックする形で2人はお付き合いをするようになりました。
「今ではお互いに日傘をさして手を繋いでデートする仲になりました。今後いつ傘が壊れても安心だなって思っています」と微笑む紗希さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop