そんな旦那デスノートに着想を得たマンガ『夫の死を願ったらダメですか?』(KADOKAWA刊、原案・草餅よもぎ、作画・まきりえこ、電子のみ)が話題です。
男の子だけを求める夫と義母
「3人目、いつにする?」そんな夫の一言から、幸福な結婚生活が崩れはじめました。
主人公の雪村梨央は、双子の女の子を育てる専業主婦。夫の雪村亮はそこそこエリートのサラリーマンで、夫の実家は先祖代々の土地を持ち、不動産会社を経営しています。新婚当初の夫はやさしく、義母との関係も良好でした。関係に亀裂が入ったのは妊娠中、双子の性別が判明してからです。
ふたりとも女の子だと知った夫は落胆。早く後継ぎがほしいというのが、夫と義母の本音でした。あげく出産後2ヶ月たらずで「3人目」を要求してきたのです。

そんな中、夫のモラハラはひどくなる一方。しかも不倫まで発覚したのでした――。




























このままでは私が壊れてしまう
妊活に励んでも、ことが簡単に運ぶわけもなく、「なんでダメなの?」と、夫から理不尽に責め立てられる日々。この頃から、やさしかった夫が徐々に変貌していくのです。モラハラにパワハラ。専業主婦をバカにしたような嫌味に、身なりや容姿への暴言。ついには生活費をろくに渡さず、梨央に土下座を強要してきます。生活費のためにやむなく梨央が土下座すると、夫は万札を床に叩きつけるのです。「物乞いみたいだな」と捨て台詞を吐く夫に、梨央の中で何かがプツンと切れました。
夫がいなくなればいい。
我慢が限界を超えて、新たにわきあがった感情は、梨央のたったひとつの希望になったのです。憎しみや怒りが希望?と頭を抱える人もいるかもしれません。でも梨央は、夫の死という希望にすがりつきました。
♯夫デスブックとの出会い
やがて夫の不倫も発覚。夫に愛情はないにしても、妻子を蔑ろにしていい理由にはならないはず。ストレスフルな生活の中で、梨央が気持ちを吐露できる場所が、「♯夫デスブック」でした。SNSにはたくさんの仲間がいて、夫からの仕打ちや不満を書き込んでいます。「殴られた」「首を絞められた」「クソ夫」「この世から消えてくれ」etc。
共感のイイネを押しまくる梨央の表情は、まるで般若です。般若というのは怖いイメージですが、顔の上下で心の二面性を表現しているといわれています。不本意ながら鬼になってしまったうしろめたさや恥ずかしさと、人間の悲しさと切なさです。
♯夫デスブックには「誰か助けて!」という悲痛な書き込みもあり、一読者ながら心配になってしまいます。また梨央自身も、ただイイネを押し、思いを吐露するだけではなく、助けを求める時がやってくるのです。
そして梨央の決断は
♯夫デスブックに集う同志達の知恵や経験談を参考に、梨央は始動します。夫への復讐へ、そして子供達と自分の人生へ。憎しみや怒りといったマイナスの感情は、行動の着火点に成り得ます。夫を破滅させる計画を、着々と実行する梨央……。
しかし梨央自身も、こんな風にはなりたくなかった、という悲哀も抱えているのです。梨央が選んだ決断には賛否あるかもしれません。でも、自分の人生を勝ち取った梨央に、私は拍手を送りたくなるのです。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx