健康意識の高まりや筋トレブームが重なり、筋肉のもとになる“たんぱく質”に注目が集まっています。コンビニやスーパーでも、「高たんぱく質、低カロリー!」をうたう商品が続々と登場し、その勢いは衰える兆しが見えません。


そんな筋トレ・たんぱく質ブームが続く中、相談者の田野みきさん(仮名・31歳)は暗い表情で、最近悩まされているという“ある悩み”を打ち明けてくれました。

会話の8割が“たんぱく質”の男、しんどすぎる

1年半前から、同じ職場の33歳の男性とお付き合いをしているという田野さん。

「金を脂肪に変えるとかウケる笑」口だけマッチョの恋が終わった...の画像はこちら >>
元々直属の上司で、仕事中は頼りになる優しい人です。でも彼との食事がすごく苦痛になってきて……。その理由は、『この料理ってPFCバランスどんな感じなの?』という一言。常に呪文のように、『PFCバランス』『たんぱく質どれくらい?』って食べるたびにつぶやいているんです」

PFCバランスとは、食事として摂る三大栄養素の頭文字のこと。P=(Protein)たんぱく質、F=(Fat)脂質、C=(Carbohydrate)炭水化物の摂取比率のことを示します。

筋トレをしている人たちにとって、この筋肉のもとになるたんぱく質の摂取は何よりも大事。そして全体のカロリー計算や体づくりのためにも、この三大栄養素をバランスよく摂ることがとても大切です。

「こだわりと信念があって、体づくりに取り組んでいる方はいいんです。ただ、わたしの彼氏はそれを押し付けてくるというか、自分の知識をひけらかして、何も知らない周りを見下してくるのが癇に障るというか。そして、何よりも納得がいかないのは、健康を押し付けてくるくせに体重120キロ超えの大巨漢なんです!」

“健康語り”がうるさいのに、説得力ゼロ

そんな恰幅(かっぷく)のいい彼氏さんは、食べるものに対して日常的に“マイルール”が厳しいそうです。

「金を脂肪に変えるとかウケる笑」口だけマッチョの恋が終わった日。“意識高い系デブ”が見失った空気と常識
画像はイメージです。※画像生成にAIを使用しています
「口癖が『これってPFCバランスどんな感じ?』というほどだから、たんぱく質を異常に気にしています。でもめんどくさいのが、どこに外食に行っても“たんぱく質のダメ出し”が始まるんです。


ファミレスで自分が好きなコーンスープやフライドポテト、ハンバーグをウキウキしながら頼むんですが、メニューの成分表を見て大きなひとりごとを言い始めて……。『なんでこんなにたんぱく質が少ないの!?』『意味わかんない』と勝手に腹を立てて、毎回不機嫌になるんですよ。

そりゃあポテトとスープとか、たんぱく質が豊富なわけないですよね。普段『PFCバランスが~』とか言ってるから知識はあるのかと思っていたのに、ただダイエット系YouTuberや筋トレ系インフルエンサーの動画を“見ただけ”で、自分も気分だけマッチョになっていたんでしょうね」

彼氏さんは「たんぱく質のため」と言って、過剰にカロリーを摂取し続けていたそうです。

「健康にいいものなら、なぜか『カロリーはゼロ』というか、カウントしない謎ルールが彼の中にありました。納豆や卵とか、キムチとかチーズとか。それらが積もり積もって、大巨漢を作り上げていたのに。自分にとって都合のいい解釈をし続けていた結果が、今なんだと思います」

「ポテトにたんぱく質足せますか?」とかやめてくれ

そんな意識だけ健康オタクな彼は、さらに暴走します。

「金を脂肪に変えるとかウケる笑」口だけマッチョの恋が終わった日。“意識高い系デブ”が見失った空気と常識
画像はイメージです。※画像生成にAIを使用しています
「『ポテトになにかたんぱく質付けられないんですか!? 別料金でもいいんで!』って言い放ったんですよ(笑)。34歳のいい歳した大人が何言ってるのってどん引きしちゃいました。『塩の代わりにプロテインかけろってか!?』って心の中で突っ込んじゃいました。結局大盛のチキンソテーに、大盛のフライドポテトを付けていましたが、もう恥ずかしくて同じ空間にいたくなかったです……」

店員さんに大声で無理な注文をつけた姿を見て、急激に愛が冷めはじめたという田野さん。しかし、愛が冷める事件はこれだけでは終わりませんでした。


屋台メシにダメ出し連発。もはや夏の風物詩ですらない

「金を脂肪に変えるとかウケる笑」口だけマッチョの恋が終わった日。“意識高い系デブ”が見失った空気と常識
画像はイメージです。※画像生成にAIを使用しています
「夏祭りに、近所の神社に行ったときのこと。やきそばとかたこ焼きの屋台を見て、『わー!なに食べようかな』って私が楽しんでいたのに、彼は『どれもほとんどたんぱく質ないじゃん』『太るだけの食べものだ』って文句しか言わない。しかもお店の人に聞こえるくらいの声で言うから、どこに行っても一瞬場の空気が凍ってしまって。

かき氷やチョコバナナを買おうとしても、『わざわざ金を脂肪に変えるとかウケる(笑)』『いい歳なんだから、栄養面気にしようよ』って水を差してくるんです

屋台は食べ物の栄養を気にするというより、場の雰囲気を楽しみたいって思いが強いのに、いちいち隣で文句を言われるとテンションが下がってしまって……。10軒くらい屋台を見ていたのですが、すべて隣で文句を言ってくる。さすがにむかついて、さっさと帰ってきちゃいました」

食事のたびに隣で小言を言われ、しかし彼は鍛えるどころか太り続けるばかり。

「作った手料理のチャーハンも、『たんぱく質少なすぎ(笑)。カップラーメンレベル』とか『炭水化物の塊とかひどすぎてウケる』と言われて、SNSに晒されたりしていました。言っていることと体型が反比例しすぎてもうムリ。

彼が『健康にいいから』と言って、ゆで卵6個に大好物のマヨネーズをたっぷりとかけ、へびのように丸飲みしている姿が本当に気持ち悪くて、その場で別れを告げて出てきました。健康への意識“だけ”が高すぎる人は、もうムリです」

健康志向や筋トレそのものが悪いわけではありませんが、大切なのは“誰かと楽しむ時間”や“思いやり”を忘れないこと。
PFCバランスよりもまず、心のバランスを整えることが、豊かな人間関係には必要なのかもしれません。

<文/青山ゆずこ>

【青山ゆずこ】
漫画家・ライター。雑誌の記者として活動しつつ、認知症に向き合う祖父母と25歳から同居。著書に、約7年間の在宅介護を綴ったノンフィクション漫画『ばーちゃんがゴリラになっちゃった。』(徳間書店)、精神科診療のなぞに迫る『【心の病】はこうして治る まんがルポ 精神科医に行ってみた!』(扶桑社)。介護経験を踏まえ、ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちをテーマに取材を進めている。Twitter:@yuzubird
編集部おすすめ