たとえ戦時下の場面であっても、高橋演じる辛島健太郎役が希望の存在として写る。
男性俳優の演技を独特視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、本作の高橋文哉に感じる眉間の魅力を解説する。
キュートなクッキング場面をこしらえる高橋文哉
『あんぱん』主人公・若松のぶ(今田美桜)の夫となる柳井嵩(北村匠海)にとって、東京芸術高等学校時代の同級生・辛島健太郎(高橋文哉)は戦友である。第10週第47回、太平洋戦争開戦で召集のため福岡に帰郷する健太郎と食卓を囲む場面が印象的である。嵩が帰ってくると、健太郎は台所で玉ねぎを刻んでいる。玉ねぎが目にしみて「くうぅ~、かぁ~」なんてキュートな声を軽妙にもらす健太郎のキャラクター性が愛おしい。同時にこんなちょっとしたリアクション台詞ひとつで視聴者をキュンとさせる高橋文哉がひたすら愛おしい。
健太郎が作っていたのはカレーライス。戦時中としては豪華なメニューが作れるのは、彼が勤務する広告会社から材料をわけてもらったから。召集を前にしても友人の分まで手際よく調理しながら、キュートなクッキング場面までこしらえる。
人懐こい眉間の魅力

どんどんカレーライスを食べ進める健太郎が水を一口飲んで、眉間をキリッとする。
人懐こい眉間の魅力は本作に限ったことではない。高橋主演ドラマ『伝説の頭 翔』(テレビ朝日系、2024年)では、伝説の不良といじめられっ子を一人二役で演じるため、これは大胆にもほとんど眉間の動きだけでメリハリをつけていた。二役分のメリハリはありながら、どちらの役の眉間も同じだけ人懐こいという。
戦時下の希望として感じるツーショット

嵩も召集され、第10週第50回では配属先の上等兵・八木信之助(妻夫木聡)から怒声を浴びせられる。先輩兵や上官からの叱責にひるんでばかりいる嵩だが、第11週第52回で健太郎と再会を果たす。
嵩が靴を磨いているところへ健太郎がやってくる。そこには形相を変えて上官たちのような口調になった健太郎がいる。嵩は身をすくめて「健ちゃん」と呼びかけるが、健太郎は態度を変えない。嵩をからかう演技だったとわかると、あの食卓場面のようにツーショットが一瞬で華やぐ。
希望の大粒として結晶化する戦後場面

同回では陸軍幹部候補生の試験勉強に励む嵩に健太郎があんぱんを差し入れる場面がある。あんぱんをサッとわたすその手元と厩舎で会話する表情など、ツーショットに前後する単独ワンショットどれもが清々しい。戦時下が過ぎ、戦後になるといよいよ希望感が浮かぶ瞬間も見逃せない。
第13週第64回で福岡に帰っていた健太郎が柳井家にやってくる。玄関でひと際快活な調子で再会を喜んで、眉間を盛んに動かして健太郎役の魅力があふれる。
嵩と健太郎は不良品回収をひとまずの生業にするのだが、第14週第67回で浮かない顔で手にした漫画雑誌に熱心な眼差しを注ぐ嵩を見つめる健太郎が画面奥でピンぼけながら眉間に力を込めているのがわかる。
嵩が読む雑誌名は「HOPE」。この屋外場面では雪が降っている。その一粒一粒と高橋文哉の眉間の魅力がまさに希望の大粒として結晶化しているように写っているように感じたのは筆者だけ?
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。