「終活」「孤独死」という暗いトピックスがメインテーマとなっているが、鳴海を演じる綾瀬はるかの可愛らしさによって、知らず知らずのうちにそれらを自分事として考えたくなる。綾瀬が主役を務めているからこそ成立している印象さえある本作ではあるが、本作の制作統括を務める高城朝子氏に、主役キャスティングの背景など話を聞いた。
「重いテーマを和らげる」綾瀬はるか起用の背景
まず鳴海役として綾瀬を起用した背景として、「周囲を明るくするハッピーオーラをまとっている役者さんなので」と振り返る。「持ち前の明るさやのほほんとした空気感、さらには綾瀬さんがこれまで培ってこられたパブリックイメージから、終活や孤独死といった重いテーマを和らげてくれていると思います。また、綾瀬さんはほんわかした雰囲気も魅力ながら、ご自身の軸をしっかり持っている役者さんです。鳴海も行き当たりばったりに見えて、実は自分の軸を持って人生を謳歌しています。
タイトルが衝撃的ですから、断られるのを覚悟でお願いしました。だからオファーを受けてくださったと伺った後も、ご本人にお会いするまでは『綾瀬さんが? 本当に?』と半信半疑でした(笑)」
綾瀬起用の反響は上々らしく、高城氏は「ドラマを見た友人たちから『鳴海役を綾瀬さんにしてくれてありがとう!』と感謝のLINEが結構届きました」と笑顔を見せた。
ぜひ原作とも見比べて! 真摯に向き合う姿勢
続けて、作品に対する綾瀬の姿勢を評価する。「綾瀬さんご自身も『笑いながら見てほしい』と話されていて、だからなのかダンスも2カ月近く練習してくださったり、“はっぱ隊”の格好をしてくださったりしています。また、『原作ファンにもちゃんと楽しんでほしい』と考えてらっしゃって、原作と同じポーズをあちらこちらで細かくされているんです。ぜひ原作と見比べていただきたいです」

「心の声は撮影現場で録っていたのですが、『完成した映像に合わせた方が良いので、改めてモノローグを録りに行きますよ』と提案してくださって、後日MAスタジオ(映像作品の音声の編集作業をする場所)に来てくださいました。良いモノを作るために全力投球する、モノづくりに対して本当に誠実な方なんですよね」
『ひとりでしにたい』は令和版『カバチタレ!』?
本作を彩っているメンバーとして、連続テレビ小説『あさが来た』(NHK総合)や大河ドラマ『青天を衝け』(同)など、長年にわたって映像作品の脚本を書き続けてきた脚本家・大森美香の存在も大きい。大森のセリフ選びや遊びが作品の空気を柔和にし、リラックスして見られる“終活ドラマ”にしている。高城氏は大森との印象的なエピソードとして、オファーした時のことを振り返る。
一方で、『ひとりでしにたい』の原作には、鳴海が『無意識のうちに他人の目から見て、良い人生・良い死を目指していた気がする』と口にするシーンがあって。その言葉が今の私には、すごく刺さったんですよね。
24年前とは価値基準が大きく変化した今、『幸せかどうかは自分で決めていい』というメッセージを届けるドラマを作りたいと思い、ずっと憧れていた大森先生にお声をかけさせていただきました」
ドラマの全6回を通して鳴海の気づきの様子が描かれているようで、「鳴海は当初、孤独死した光子を『かわいそう』と思っていたのですが、回を重ねるごとに『本当にそうなのか?』『何も知らずに勝手に同情していないか?』と疑問を持つようになります。鳴海の心境の変化にも注目してもらえると嬉しいです」と語った。
若いうちから終活を意識して、人生を豊かに
終活や孤独死について考えることを通して、自分自身のライフプランだけではなく「価値観」も見直したくなる本作。最後にそんな本作に込めたメッセージを聞くと、「やはり『人からどう見られるのか』ではなく『幸せは自分で決めていいのでは?』と同様に『他人の人生の選択も尊重してみては?』という提案というかエールを送れたら、と思っています」と答える。「また、終活は“人生の締め方”と思われがちですが、『今をどうやって楽しく生きるのか』『残された時間の中で何ができるのか』を考える時間だと私自身、原作を読んで意識が変わったように思います。なにより、結局は死は誰にでも訪れる出来事です。終活を年を取ってからではなく、若いうちからでも意識できたら人生がもっと豊かになるのかもしれませんよね」
ポップすぎる終活ドラマ『ひとりでしにたい』。終活や孤独死のイメージをガラリと変えてくれた本作が、どのようなフィナーレを迎えるのか楽しみだ。
<取材・文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki