岩田剛典主演ドラマ『DOCTOR PRICE』(日本テレビ系)が、毎週日曜日よる10時30分から放送されている。朝日放送テレビ・テレビ朝日系で放送された1月期ドラマ『フォレスト』での主演を軽々更新してくる要素、それは……。


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 岩田が演じる主人公・鳴木金成役のロングヘアーである。『新解釈・三國志』(2020年)を端緒として福田雄一監督作品に出演するときは必ずロングヘアーである岩田は、作品を重ねるごとにケレンみあふれるロングヘアーの魅力を磨いている。

 男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、鳴木役のロングヘアーに注目しながら、本作の岩田剛典について解説する。

“元医者”になるまでの明確な違い

 岩田剛典が医者役を演じるのは、2019年に放送された月9ドラマ『シャーロック』(フジテレビ系)と本作『DOCTOR PRICE』を合わせて2度目ということになる。

 正確には『シャーロック』若宮潤一役も『DOCTOR PRICE』鳴木金成役も“元医者”である。ディーン・フジオカ演じる名探偵・誉獅子雄によって過去の不正が暴かれ元医者になった前者の若宮に対して、後者の鳴木は自主退職によって元医者になる。

 この明確な違いが重要である。前者が約70分、第1話全編の尺を要したのに対して、後者は第1話開始6分ほどでささっとしなやかに元医者になってみせる手際のよさがある。その手際がどんなふうにしなやかだったか?

しなやかなモップを媒介にして

 物語導入場面として置かれる3年前、鳴木は極東大学病院の小児科医だった。パワハラ准教授・馬場秀平(濱津隆之)から新米医者の葛葉圭祐(阿部顕嵐)が暴力を受けている冒頭場面。鳴木が颯爽と登場する。彼は上司の暴力行為に対して、何を考えたのか、手にしたモップで対抗する。

 モップを手にしてバッティングフォームで構え、馬場めがけてきれいなスイング。モップの持ち手が強く命中して馬場はゴミ箱の方がドカッと倒れ込む。
何だこの展開。モップのスイング感が痛快そのものだが、何でモップなのか謎すぎる。

 葛葉が呆気にとられている中、鳴木は構えを解かずに「うん、スイングは鈍っていない」と冷静に分析するように言う。元野球部なの?

 それにしても鳴木がスイングしたこのモップはやたらしなやかな道具だな。というか野球のバットにしか見えないよ。元野球部(?)の医者・鳴木金成はそうやってしなるモップを媒介にして彼自身もまたしなやかな振る舞いを遂行するキャラクター像であるということがあざやかに導きだされる。

胡散臭いロングヘアーの魅力

 痛快なスイングを決めた鳴木はどこか上方を見つめながら「もっと稼げる方法を見つけたんだ」と言う。退職する口実がこのモップ事件なのだ。院長・天童真保(篠原涼子)を中心にした聞き取り調査の場で、馬場によるパワハラの証拠を即席で立証。しっかり退職金をもらってさっさと病院を後にする。

 現在、職を変えた鳴木は医者専門の転職エージェントであるDr.コネクション代表になった。清潔なオフィスには鳴木と事務スタッフ・夜長亜季(蒔田彩珠)しかいないが、依頼はたくさんあって売上は軽く億を超える。でも何か胡散臭い感じもするのは、元医者としてエージェントになった鳴木の特徴的なロングヘアーによるものだろうか?

 岩田剛典がロングヘアーのキャラクターを演じるのは本作が初めてではない。
映画作品だと『新解釈・三國志』や『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメン VS 悪魔軍団~』(2024年、以下、『聖☆おにいさん THE MOVIE』)、配信作品だと『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』(Netflix、2023年)などなど、福田雄一監督作品ばかり。

 しかも、作品を追うごとに演じるキャラクターとしての胡散臭い魅力がどんどん醸されるようになった。

福田雄一監督作品間で共鳴

 ギャグセンス満載の福田監督作では、どんな俳優でもエキセントリックな三枚目を体現しなければならず、その誰もが何かしら装飾的なカツラを装着してビジュアル的にもコミカルな役割を担う。

 すでに福田組常連俳優といっていい岩田は、『新解釈・三國志』趙雲役→『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』王子様役→『聖☆おにいさん THE MOVIE』ミカエル役の順番でコメディ俳優としても開眼しつつある。

 福田作品初出演となった『新解釈・三國志』で演じた超ナルシストな趙雲役は、コミカルで胡散臭く、でもとびきり端麗でカッコいいキャラのイメージが新鮮だった。岩田が髪を後ろで結ぶロングヘアーの原点ともいえるこの趙雲役が初登場する場面に、鳴木がモップでスイングしたあとのように独特の間合いで上方を見つめる印象的な表情があったことを思い出した。

『DOCTOR PRICE』第2話冒頭に鳴木が打ち合わせ中だというのに自分のペースでゆっくりアッサムティーを味わう場面があるが、やや長いワンショット中で岩田が喉を動かす瞬間が見逃せない。同様に趙雲役も「モテる上に」というセリフ中に上方を見つめ続けるその持続に耐えきれなくなったのか、もはや役柄を超えたて岩田本人が喉を動かす生々しい感じがあった。

 いわば、この動きがロングヘアー役の原点的動作なのだとすると、ロングヘアー役の原点と主演最新作のエキセントリックなロングヘアー役が作品間で共鳴する。岩田剛典がロングヘアーというビジュアルを見慣れない人もいるようだが、この共鳴に気づけば『DOCTOR PRICE』でさらにケレン味あふれるロングヘアーにじわじわ魅了されるはずだ。


<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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