数々の映画やドラマに出演している女優の松本穂香さん。大の映画好きでもあるという松本さんが、軍事政権下のブラジルを舞台にしたヒューマンドラマ『アイム・スティル・ヒア』について語ります。


アカデミー賞国際長編映画賞受賞の話題作

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 今回、わたしがご紹介させていただくのは、アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した、ブラジルとフランスの合作映画『アイム・スティル・ヒア』。今作は主人公夫妻の息子、マルセロ・ルーベンス・パイヴァの手記を元に作られた、実話ベースの映画です。

 舞台は1970年代、軍事政権下のブラジル。元国会議員のルーベンス・パイヴァとその妻エウニセは、5人の子供たちとリオデジャネイロで穏やかに暮らしていた。そんなある日、スイス大使誘拐事件を契機に国の空気が一変する。

 抑圧の波が広がる中、ルーベンスは軍に逮捕されてしまう。夫を理不尽に奪われた妻、エウニセは彼の消息を追い続けた。

理不尽に突然、壊されてしまった「家族」

「突然、理不尽に壊された家族」に松本穂香が受けた衝撃…絶望や怒りの先に“感じたこと”
『アイム・スティル・ヒア』より(以下同)
 家族の穏やかな生活を脅かす、理不尽な軍の迫害。同じ血の通った人間とは思えない行動に、得体の知れない気持ち悪さを感じずにはいられませんでした。

 パイヴァ家は、誰が見ても理想的な家族でした。両親は仲がよく、子供たちを心から愛していて、ひとりひとりが伸び伸びと穏やかに暮らせる環境がある。

 そんな家族のバランスが突然、壊されてしまう。両親の不仲がきっかけでも、子供の反抗期でもなく、突然現れた、何者かわからない存在によって。画面を通して見ているだけでも恐ろしくて涙が止まらないのに、実際に家族を奪われた人たちの行き場のない気持ちは、到底私には計り知れないものでした。


どこまでいっても自分の核になる存在

「突然、理不尽に壊された家族」に松本穂香が受けた衝撃…絶望や怒りの先に“感じたこと”
アイム・スティル・ヒア
 家族という存在について、最近よく考えている気がします。そんなタイミングでのこの映画でした。

 家族を奪われた絶望や怒り、画面に溢れる感情をただ見つめることしかできなかったけれど、そんな中でも確かに感じたことがあります。

 それは家族というものはどこまでいっても、自分の核となる存在なんだということ。いろいろな歴史があって、今の自分があるということを、私自身が忘れてはいけない。

大事なものを蔑ろにされた悲しさをごまかさない

「突然、理不尽に壊された家族」に松本穂香が受けた衝撃…絶望や怒りの先に“感じたこと”
アイム・スティル・ヒア
 そして、その核を何者かに脅かされることを決して許してはいけないと、深く思いました。

 大事なものを蔑ろにされたときの悲しさは、誰しも感じたことがあるんじゃないでしょうか。そのとき、感じたものはきっと誤魔化しちゃいけない大事なものだと思うんです。

 この映画を観て、自分のなかの“大事なもの”を考えるきっかけになってくれればいいなと思います。大切な人と、映画館でぜひ。

●『アイム・スティル・ヒア』
配給/クロックワークス 新宿武蔵野館ほか全国ロードショー中 ©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma

<文/松本穂香>

【松本穂香】
1997年2月5日生まれ。大阪府出身。2015年『風に立つライオン』で長編映画デビュー。
2017年連続テレビ小説『ひよっこ』に出演して注目を集め、2018年にはTBS日曜劇場『この世界の片隅に』で主演に抜擢。2023年、映画『“それ”がいる森』で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。2024年10月期月9ドラマ『嘘解きレトリック』では鈴鹿央士とともにW主演を務めた
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