40歳を超えてから、スタートアップ企業である「令和トラベル」に転職。
第11回となる今回は、大木さんの考える「海外で学ぶこと」について、カンボジアに長期滞在しながら、娘さんを現地のスクールに通わせている子連れ旅専門家・かかさん(@kaka_boshi_traveler)のお話も交えて、じっくりと掘り下げていきます。
母子留学という選択肢が広がる今

前回に引き続き、カンボジアに娘さんと滞在中のかかさんと「母子留学」という観点でもお話しする機会がありました。
かかさんは、娘さんを日本の公立小学校を3年生からお休みし、フィリピンやカンボジアで娘さんをスクールに通わせながら生活しています。
今日はそんなかかさんとのお話も含め、「海外で学ぶこと」について、私自身の経験談も交えながら、綴っていきたいと思います。
「日本の教育に縛られない」かかさんの教育観

私自身も長女が小学生に上がるころ、日本の公立の小学校以外にも、国内外のインターナショナルスクールや、国際教育に力を入れている学校など、いろいろな選択肢を考えてきました。それでも結局のところ、なかなか思い切った選択ができなかった、という現状がありました。
一方でかかさんは、日本の公立小学校3年生からお休みして、海外を飛び回るという選択をされています。
「日本の学校をそんなにお休みしてしまっても大丈夫?」と不安に思ってしまう私とは違い、かかさんは、「日本の学習指導要領から外れてしまうことになんの不安もない」と語ります。それよりも、「日本の教育に縛られない場所で、娘の“好き”を伸ばしたい」そう考えるかかさんの視野の広さや視座の高さに、私は強い刺激を受けました。
「言葉と算数さえできれば、あとは生きながら学べるから」。
そんなシンプルで力強い教育観のもと、娘さんは好きなことをとことん追いかけ、数字や漢字の学びも自分のペースで続けています。
今いる世界がすべてじゃない「海外で学ぶことの価値」

クラスで友達ができず、孤立してしまったり、不登校になったり。今いる環境が合わなくて、思い悩むことがあるかもしれません。でも、少し視野を広げてみたら、それはとても狭い世界の中で起きていることなんです。
私の子どもたちも日本の小学校に通っていて、人間関係の波に飲まれることがあります。特に6年生の娘は、女子同士の距離感や関係性が難しい時期。たった30人のクラスが彼女の世界のすべてになってしまい、少しうまくいかないだけで、この世の終わりのように感じている姿を目の当たりにすることもあります。
でもそれって、広い世界からしたら本当に点でしかなくて。違う国に行けば、まったく違う価値観の人たちが、まったく違う日常を生きている。
実際に、ニューヨークで子どもたちを1か月間サマースクールに通わせたことがあったんですが、多民族のニューヨーカーに混じって、みんなが英語のネイティブだという環境で、子どもたちは授業を受けました。その中で娘も息子も日本では得られない経験ができたなと思っています。
娘はゴールドのヘアーの子の気がめちゃくちゃ強い! と言いながら、クラスで打ちのめされて帰ってきたことがあったり、息子は現地の子どもたちと「だるまさんがころんだ」のような遊びに参加しましたが、ルールがわからず、最後の順番に回されてしまい、それが悔しくて、怒り泣きしながら出てきたりと悔しい思いもたくさん抱えて帰ってきました。
日本の学校にいたら経験しないような出来事。自分とはまったく違う価値観を持つ子に出会うこと。マイノリティーになるという立場を経験すること。そうした体験を通じて、「日本の当たり前」が当たり前ではない世界を知り、視野が大きく広がっていく。
そして、世の中に無数にある選択肢を知ったうえで、自分で道を選び取る力を育んでほしい。それが、私とかかさんが共通して考えている、海外で学ばせることの価値です。
母子留学の選択と、子育てのゴール
母子留学とひとことで言っても、その形はさまざまです。私のように子どもの長期休暇を利用して短期間海外に滞在し、「親子留学」を楽しむパターンもあれば、かかさんのように長期滞在型で、しっかりと海外の空気を肌で感じさせるパターンもあります。特に東南アジア、とりわけフィリピンは、滞在費や物価を抑えられることから人気の地域のひとつです。ところが、かかさん曰く「意外とお金はかかる」とのこと。
また、かかさんのもとには留学相談がよく寄せられるそうですが、「その土地が子どもに合うかどうかは本当に人による」とのこと。1年間の予定で渡航しても、なかなか現地に適応できず途中で帰国してしまう子もいれば、逆に想像以上に馴染んで現地校で活躍する子もいます。
結局のところ、行ってみなければ分からない。だからこそ、かかさんは「気になるなら、まずは短期間でも行ってみればいいんですよ!」ととっても豪快です。
そこで、私が気になったのは、やはり子どもの「学歴」や、将来の進学への影響です。この問いに対して、ある意味予想通りの回答ではありましたが、かかさんの答えが子育ての本質を捉えているようで、とても印象的でした。
「大学に行ってほしいとか、学歴が必要だとはまったく思っていない」
かかさんのその言葉には、子どもをひとりの人間として信頼している強さがありました。そして、かかさんはこう続けます。
「私の子育てのミッションは、子どもを“自分ひとりで生きていける人”にすること」
この価値観こそ、母子留学を続ける彼女の軸であり、揺るぎない信念なのだと感じました。
未来を切り開く力を育むために

とはいえ、母子留学は決して容易な選択ではないのも事実です。費用や生活環境の違い、文化の壁、そして子ども自身の適応の難しさ。課題は数えきれません。
それでも、そこで得られる経験や視野の広がりは、何物にも代えがたいものです。私もかかさんとの対話を通じて、「学びの場は世界中にあり、未来の選択肢は無限に広がっている」ということを改めて感じました。
子育てで大切なのは、「子どもを自分ひとりで生きていける人にすること」。そのうえで、海外で学ぶという選択をする。そして、その学びの中で、子どもたちが世の中に無数にある選択肢を知り、自分の道を自分で選び取る力を育むこと。それこそが、私とかかさんが共通して信じている、海外で学ばせることの最大の価値なのです。
<文/大木優紀>
【大木優紀】
1980年生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして報道情報、スポーツ、バラエティーと幅広く担当。21年末に退社し、令和トラベルに転職。