このセクストーションを行う犯罪者たちは、どのような手口を使って被害者に近づき、どのように脅してくるのでしょうか。性的被害に関する相談支援を行うNPO法人・ぱっぷすに話を伺いました。
主にSNS上で近づき、親しくなったら動画や画像を要求
──「セクストーション」とはどういった犯罪なのか、改めて教えてもらえますか?「セクストーションは、二種類に分かれています。まずは、性的な動画や画像そのものを要求してくるセクストーション。こちらは従来からあるタイプで、ぱっぷす設立から絶え間なく相談が寄せられている被害です」
──被害者はどういった経緯で送ることになってしまうのでしょうか。
「主にSNS上で加害者となる人間と仲良くなるところから始まります。朝から晩まで他愛ない会話をしていくことで、次第にそれが日常となっていきます。相手を信頼しきったタイミングで動画や画像の要求がスタートし、それがどんどんとエスカレートしていくんです」

「断れないわけではなく、断れないようにされていくんです。たとえSNSだけの繋がりであっても、そこに至っている時点で既に信頼関係が成立してしまっているんですよ。断ると『相手に対して失礼なのでは?』とも思わせられているんです」
なぜか被害者が「ごめんなさい」と言わされる流れに
──冷静に考えれば、おかしいと思うのですが……。「断るにしても『どうして?』と聞かれると『メイクしてない』『可愛くない』としか言えなかったりするんですよ。そうすると『恥ずかしがらなくていいよ』と返ってくるので、断る言い訳ができなくなっていく。
被害者が未成年者の場合だと、『大人ならこれくらいのこと普通はするよね?』なんて言われて、自分が成熟しているように見せたいがために送ってしまうこともあるようです。このように、感情から入って信頼を勝ちとる手口を『グルーミング』といいます」
──やり口は洗脳にも近いような気がしますね。
「被害者と加害者のやりとりを見せてもらうと、被害者の方が謝罪している構図がよく見られるんです。一度でも動画や画像を送ったら『次のを送って』と言われ、それを渋っているうちにSNSに載せられてしまう。『消してほしい』と訴えても『そっちが言うことを聞いてくれないからこうなったのに?』なんて開き直られる。いつの間にかなぜか被害者が『ごめんなさい』と言わされる流れになっているんです」
「学校にもばれる」「親が悲しむよ」と追い詰める
──被害者側が謝る筋合いはないのに……。
でも、はっきりと言えることは、送った側は何の罪にも問われません。送らせて所持をしている人間こそが犯罪者なんです。たとえ警察に相談をしても、学校に知られるという考え方も大きな間違い。
──法律の誤った知識を植え付けて、モラルや感覚を歪ませているのですね。
「性的な姿を写した写真や動画を求められることは性暴力です。性暴力って、さっきは良くても今はダメが通じるものなんですよ。性的同意を侵害された時は訴えていいんですよ」
性的な画像を要求する“古典型”の脅し
──もう一つの「セクストーション」とはどういったものなのでしょうか?「近年急増している、金銭的な要求をしてくるセクストーションです。ぱっぷすには2023年から徐々に相談が増え始め、2024年にぐっと増加しました。2025年からは、月に300件以上の相談が寄せられています。特徴としては、主な標的が10代から20代前半の男性であるという点が挙げられます」

「はい。海外の会社が運営しているアプリがメインになっています。いきなりビデオ通話を持ち掛けられて、繋がった途端に女性が服を脱いだ姿が映るんです。その雰囲気に流されて自分も脱いでしまい、顔と性器が映った画面をスクリーンショットされてしまう。その後、『これを貴方のフォロワーに送ります。消してほしければ、いついつまでにお金を振り込んでください』と……」
──お金を払ったら終わり、というわけではないですよね。
「『スマホの画像は消しました。
──この場合、加害者は女性ということですか?
「そうとも言いきれないんですよ。映像は女性でも会話してみたら声だけ男性だったり、脅してくる時に映った手が男性だったり。要は組織的な犯罪なんです」
被害が爆発的に広がる背景「日本は“穴場”」
──この場合の対処法で有効なのは?「一度引っかかってしまうとスクショを撮られないようにする予防策はありませんが、どんなやりとりをしたのか証拠を保存しておくことは大事ですね。
また、連絡手段を絶つことも大事です。脅しは被害者が目にするところで行われるもの。だから連絡さえ絶ってしまえば、不安を煽る対象にはならない。そうなれば次のターゲットに向かうので脅迫は終わります。そのうえで、自分一人で抱え込まずにぱっぷすに相談してください」

「アメリカやイギリスでは政府が問題視をしていて、ニュースなどで啓発活動を始めています。FBIも特設ページを設けているほどですよ。
──相談件数は増えているのに?
「相手が外国人であること、SNSの運営会社が海外であることで、日本の警察から対応できないと言われることが多いようですね。話を聞いてもらうためにも、やはり事前に証拠を残しておくことは必須です」
「断れない」若者たちの心理
──ここまで話を聞いて、SNSでしか知らない相手に対して「断る」「連絡を断つ」ことができない未成年が多いようにも感じました。「ぱっぷすへの高校生から多い相談の一つに『SNSで知り合った大人に対して、寝たいのに連絡が来ると付き合わなきゃいけない気持ちになる』というものがあるんです。でも、この相談をしてくる子って、同年代の友達に対しても同じ悩みを抱えているんですよね。自分からやりとりを止めてしまうことに罪悪感をもってしまうんです」

「そうなんです。友達とも基本的なコミュニケーションができてない。でも、中学生まではできていたことがほとんど。でも、それは中学は学校として21時以降はスマホを触ってはいけないというルールがあったりして、断るきっかけがあったからなんです」
──なるほど。高校生になって自由が増えたから……。
「こういう子にこそ、親が『断る理由』を一緒に考えてあげてしいです。例えば、21時以降はダメというルールを親がつくってあげるとか。親を悪者にしていいから、これを理由に断りなさい、と」
私たち大人ができるサポートとは
──それってセクストーションの加害者とのやりとりにも通じるところがあるような。「そうなんですよ。絶対的な断る理由を事前につくっておけば逃げ道になりますからね」
──ほかにも、セクストーションの被害にあった未成年者たちに対し、保護者目線で注意すべきことはありますか?
「まず、すぐ近くに危険な大人が存在していることを子どもに話す。その上で、もし送ってしまった場合はすぐに相談して欲しいと伝える。
ただし『親に知られたくない』という気持ちを利用してくる加害者もいます。1人で抱え込ませようという策略なんです。だからこそ親以外に話せるところ……ぱっぷすなどの相談先を教えておくのも大事だと思います」

「さらに、親御さんは、子どもが送ったものや加害者とのやりとりを目にする必要はありません。それを見たうえでどう動くかを考えるのは警察の役目ですから。
学校の長期休暇はスマホを使う機会が増えて、セクストーションのような性被害に遭いやすくなるタイミングでもありますが、夏休みが終わった後も積極的に話し合いの機会を設けるようにしてください」
──ありがとうございました。
【相談窓口】
セクストーション、ならびにそのほかの性的被害に関してはNPO法人ぱっぷすへ。匿名・無料で相談できます。
NPO法人ぱっぷすは「性的搾取に終止符を打つ」というミッションに取り組む非営利の民間団体です。
<取材・文/もちづき千代子>
【もちづき千代子】
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:@kyan__tama