「20代は創作活動に没頭して、仕事しかしていなかった」と語る折原さんですが、33歳のとき「このままじゃダメになる」と東京を離れ、逗子への移住を決断します。折原さんが選択した「人生の転換点」について、お話を聞きました。
「このままだと枯渇する」と感じた20代の終わり
――第一線で活躍されていた30代前半で、東京を離れて逗子に移住されましたが、当時はどのような生活を送られていたのでしょうか。折原みとさん(以下、折原):20代は、本当に仕事一筋でしたね。中目黒のマンションに住んでいて、仕事以外のことはほとんどしていなかったと思います。昼夜逆転の生活で、遅くまでずっと仕事をしていました。朝方に寝て、お昼ぐらいに起きてご飯を食べて、またすぐ仕事……とそんな毎日です。その頃は犬もまだ飼っていなかったので、散歩に行くこともほとんどなかったです。時々、代官山まで自転車で出かけるくらいでしたね。
――一日中、原稿を書いているという状態だったんですね。
折原:そうですね。その頃はすごくストイックでした。でも、仕事自体が好きだったので、それはそれでよかったんです。
――作品をたくさん出されていたタイミングで、移住を決めるのは大きな決断だったと思います。きっかけがあったのでしょうか。

作品を書き続けるためにも、アウトプットだけの生活ではいけない。もっと違う環境で新しいことを経験して、自分の中に「何か」を入れていかないといけない、そう思ったのがきっかけです。
――インプットの必要性を感じたんですね。
折原:そうですね。
今なら、憧れを現実にできるかもしれない
――移住先を逗子にしたのは、何か理由があったのでしょうか?折原:ちょうど今後のことを考えていたタイミングで、仕事の取材で小笠原諸島に行く機会があったんです。そこで見た海の美しさや、自然の中での生活に、ものすごく衝撃を受けました。そこで「自然に囲まれて生きたい」って、強く思いました。
もともと海が好きで、「いつか海のそばに住みたいな」とは思っていたんです。でも、ずっと憧れのままでした。でも小笠原諸島に行ったことで、「もしかして、今なら海のそばに住めるんじゃない」と思えたんです。
――憧れが現実になったんですね。

――当時、迷いや不安などはありましたか?
折原:たしかに、迷いも出てきますよね。私自身、19歳の時に茨城から上京して、それから10数年間ずっと東京にいましたから。東京のマンションでの生活はとても便利だったので、「東京から引っ越す」なんて全く考えたこともありませんでした。でも、いざ「逗子に引っ越すぞ!」と決めたら、もうワクワクしかなくて。迷いも不安も全くなかったです。「すぐにでも逗子に行こう!」という感じでした。
犬友達をきっかけに広がった、ご近所との縁
――実際に逗子に住まれてどうですか?折原:すごくいいですね。海も景色ももちろん素晴らしいんですけど、住んでいる方たちの雰囲気がすごく開放的なんですよ。
――折原さんのSNSを拝見すると、ご近所の方ともとても仲良くされている印象です。
折原:引っ越してきた当初は、まったく知り合いがいない状態だったんです。でも、引っ越しと同時に飼ったゴールデンレトリバーのリキ丸のおかげで、少しずつ繋がりができていきました。

――移住後、生活スタイルは変わりましたか?
折原:すごく変わりました。以前は昼夜逆転の生活だったんですけど、今は早起きですし、毎日2回は犬の散歩に行ってます。東京にいた頃は運動もほとんどしていなかったんですけど、今は運動やお稽古ごともいろいろやっていて、体を動かす時間が増えました。
海もすぐそこなので、今みたいな季節は、海でシュノーケリングしたりしています。
歩いて10分くらいで、誰もいない岩場に行けるんですよ。
――お仕事にも変化はありましたか?
折原:仕事のスタイルも、大きく変わりました。一日中ずっと仕事をしているということはなくなりました。やるときはやるけど、やらないときはやらない。メリハリをつけて働くようになりました。
書くものもかなり変化しています。昔は東京に住んでいたから、物語の舞台も自然と東京になることが多かったんですけど、今はほとんど湘南周辺が舞台になっています。
もちろん、昔からずっと書いているテーマ、「前向きに生きること」とか「命と向き合うこと」は変わっていないんです。でも、それにプラスして「自然との向き合い方」みたいな視点が入ることも増えてきましたね。
自分の勘に素直に従ってよかったと思えた
――執筆活動に趣味に、日々たくさんの活動をされていますが、そのバイタリティはどこから出てくるのでしょう?折原:やはり、ある程度のタイミングで環境を変えたのはすごくよかったと思います。30代になって、もしあのままずっと東京にいたら、作品を書くことができなくなっていたかもしれません。
あとは、環境を変えたことで、自分の中に入ってくる経験や出来事が増えたので、「書きたい」ものがどんどん増えています。それが、創作活動やエネルギーの素になっています。
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現在も逗子で充実した生活を送りながら、精力的に創作活動を続けている折原さん。自分の心と体の声に耳を傾け、「このままじゃダメになる」という直感を信じて環境を変える勇気。豊かに働き続けるためにとった大きな決断が、今もなお第一線を走り続ける折原さんの活力になっていました。

漫画家、小説家。エッセイ、詩集、お料理本、絵本、CDなど、様々なジャンルで活動中。湘南在住、愛犬はゴールデンレトリバーのハルちゃん。着物好きの和物フリーク。 防災士。野草料理研究家。湘南焚き火倶楽部会長。
Instagram:mito/60代バツなしおひとりさま(@60life_mito)
<取材・文/大夏えい>
【大夏えい】
ライター、編集者。大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作。