2006年に第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで華々しいグランプリを受賞したのが、もう20年近くも前なのか。最近の溝端淳平からは、実に安定した大人の魅力が漂う。


ジュノンボーイGP受賞から19年…36歳俳優が深夜ドラマで見...の画像はこちら >>
 8月19日に最終話を迎えたドラマ『私があなたといる理由~グアムを訪れた3組の男女の1週間~』(テレビ東京系)では、倦怠期というには曖昧な関係である夫婦の夫役を演じた。本作での溝端は安定して声の魅力を感じる好演を見せていた。

 男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、ジュノンボーイから俳優としての円熟期に入った溝端淳平を解説する。

「え?」か「うん」しか言わない男

 3組の男女カップルと夫婦が過ごす1週間のグアム滞在は、うきうき楽しいるんるんの旅行気分というわけにもいかない。

『私があなたといる理由~グアムを訪れた3組の男女の1週間~』(以下、『私があなたといる理由』)が定点観測する男女たちは、お互いがほんとうパートナーにふさわしいのかどうかを見極めようとする。

 旅行中のちょっとしたやり取りの中で、違和感や不調和をそれぞれが感じる。第1話冒頭、リゾートホテルの外観を写すカメラが舞い降りる。一組の夫婦、泉美優(蓮佛美沙子)と泉陽介(溝端淳平)がテラス席で朝食中。

 ちょっとした雑音が聞こえる。パソコンを開いている陽介がカチャカチャとキーボードを打ち込む音。あからさまに倦怠期というわけではないが、ワーカホリックな陽介はあまり会話を楽しもうとしない。

 美優に言われたことに対して基本的に「え?」か「うん」しか言わない男なのである。

溝端淳平の魅力的な低音

 海辺のサンセットディナー。だというのに陽介は中座して仕事の電話。
忙しいのは結構だが、せっかくこういうときくらいはねぇ。さすがにふてくされた美優が「陽介さぁ、この旅行来たかった?」とぼやく。陽介も少しは反省したのか、帰ってきた部屋で美優を抱きしめる。これが逆効果。

 翌日、恋人気分で旅行を楽しみたい美優が「陽介は」と枕詞を置いて問いかける。最初は「え?」か「うん」しか言わない陽介だったが、ある程度誠実に問いかけを受けとめ、ある程度言葉数を増やして答えようとはする。

 第2話中盤までほとんど溝端淳平にはまとまった長さの台詞がほとんどない。でもいざ台詞の言葉数が増えると、溝端の魅力的な低音の声が画面上を色っぽく湿らせる。そうそうこれこれ。この安定して穏やかな低音が聞きたかったのだ。

誰もが惚れ惚れする表情

 夕景の砂浜を二人で歩く場面では、美優が「恋人と夫婦って違うのかもね」と言う。ここでも陽介は「え?」と反射的に聞き返してから「うん」と何となく同意する。美優がさらに「初めて会った時も陽介、仕事で遅れてきたの覚えてる?」と嬉しそうに聞くと、意外な質問だったからなのか、陽介は「えへぇっ?」と少し声をふるわせる。


 この声色。サンセットビーチの波音と同じくらい綺麗だなぁと惚れ惚れ耳を傾けてしまう。するとインサートカットで後続する回想場面でもっと惚れ惚れするものが……。

 遅れてきた陽介が美優の前の席に座る。座った陽介にカメラが寄る。陽介は、ちょっと照れくさそうな表情を浮かべ、美優から視線をずらしながらも、翻って思いきりはにかむ。はい、撮れ高十分。きました、溝端淳平スマイル。誰もが惚れ惚れする表情を回想場面で決めてくれるところ、憎いなぁ。

ジュノンボーイから安定の円熟期へ

 惚れ惚れする表情といえば、近年の溝端出演作だと白石麻衣とSnow Man岩本照共演ドラマ『恋する警護24時』(テレビ朝日系、2024年)でのオーガニックな社長役がよかった。

 表情どころか、溝端淳平その人の全身から品よくだだもれる、惚れ惚れ成分がメロいのなんのって。

 17歳の高校生だった溝端は、2006年に第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで華々しいグランプリを受賞した。


 21世紀を代表するジュノンボーイになった彼が現在36歳。大人の魅力を醸すようになったのは確かというか、当然なのだけれど、でも単にそうした雰囲気だけの話ではない。

 溝端は演劇界で修行を積んだ。『ムサシ』や『ヴェローナの二紳士』など、巨匠・蜷川幸雄の下でシェイクスピア俳優になった。舞台上でのクリアで力強い発声を鍛えたことによって、俳優の基本である聞き取りやすい口跡や声の魅力をここまで洗練させた努力がある。

「え?」や「うん」といった台詞少なめな『私があなたといる理由』でさえ、音数豊かに響かせられるのは、鍛練に裏打ちされた溝端の表現力が安定の円熟期に入った証拠だろう。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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