つい先日、SNSを賑わせたある若い女性の「ランウェイを歩く夢のために、この世界に飛び込みます」という投稿。

ランウェイを歩ける」「すぐに大金が稼げる」「ちょっと働いて、すぐに辞めればいい」。
こうしたキラキラとした言葉に惹かれて性産業の扉を叩く若い女性が、近年増加している。

キラキラに包まれた「夢のステージ」の裏側

元風俗嬢の私が、AV女優のキラキラ化に反対のワケ。「短期間で...の画像はこちら >>
SNSや街頭広告では、キラキラした衣装に身を包んだ顔の整った女性たちが笑顔で存在感をアピール。その姿はまるで、正規のルートを通って自ら掴んだ「夢のステージ」に立つ、女性のロールモデルのように映るだろう。

けれど、立ち止まって考えてほしい。

実際に性産業に足を踏み入れ、体を差し出して対価を得ることは、人生における正当なステップアップと呼べるのだろうか。過去に性産業に身を置いていた私からすると、実態は大きくかけ離れていると感じる。今回は自分の体験をもとに、性産業に簡単に足を踏み込む前に理解してもらいたい「性産業の求人の怖さ」を説明する。

この記事を読めば、「キラキラ」でオブラートに包んでAV女優をランウェイに歩かせる現状に、私がNOと意見し続ける意味を少しは理解していただけると思う。

「案外平気だった」から始まる麻痺と依存

冒頭の「ランウェイを歩く夢のために、この世界に飛び込みます

元風俗嬢の私が、AV女優のキラキラ化に反対のワケ。「短期間で稼げる」の言葉に釣られ、気づけば5年抜け出せなかった
0911_ランウェイ②
その文字にめまいを覚えた私は、自然と自分が初めて業界に足を踏み入れた日のことを思い出した。私が選んだのはAVではなく、風俗嬢として「体を売る」という道だった。人生で初めて好きでもない男に8人連続で抱かれたその夜、私が抱いた感想は意外なものだった。

「案外平気だし、短時間でこんなに稼げるのか」

おそらく性産業に足を踏み入れた多くの女性が、最初に抱く感覚は似ていると思う。面接に向かうときは「自分はどうなってしまうのだろう」と震えていたのに、実際に行為を終えてみれば、思ったほど大したことがないように思えてしまうのだ。

「あれ?私、おっさんのちんぽを触るのに向いてるのかも」

冗談めかしてそう言った当時の私に、同じ店で働く、両手両足がリストカットの跡に覆われた女の子が静かに答えた。


おっさんのちんぽを触るのに向いてる子なんて、この世にひとりもいないよ

知らない誰かに抱かれること。その姿を世界にばらまかれること。自分の体やSEXに、誰もがアクセスでき、好き勝手に物を申せるようになること。そのすべてが「平気」なわけがない。

だけど、業界に足を踏み込むと、その感覚は確実に麻痺していく。防衛反応のように、あるいは気づかないふりをしているのかもしれない。そうして心は鈍麻し、私はいつもぼんやりと心ここにあらずのような状態だった。

結果、「この金額を稼ぐまでに辞めよう」と決めて入ったはずが、気づけば5年以上も業界に浸かっていた。短期間で稼げる快感と、夜の世界独特の価値観。それらに体も心も染められていくと、「普通の世界」に戻ることが難しくなっていったのだ。

「身バレしない」は嘘 顔出しの誘惑と代償

夜の世界の汚さは、求人の仕方にあると私は思っている。今回話題になった「AV」もそうだ。実際、私自身も風俗雑誌での顔出しや、AV出演のオファーを受けたことがあり、スカウトから何度も話を聞かされた。


元風俗嬢の私が、AV女優のキラキラ化に反対のワケ。「短期間で稼げる」の言葉に釣られ、気づけば5年抜け出せなかった
0911_ランウェイ③
当時、夜の仕事をしていることを誰にも明かしていなかった私は「身バレ」を恐れ、パネル写真には濃いモザイクをかけてもらっていた。ところが、その警戒心を解くように、店長やスカウトは毎日のように「交渉」を仕掛けてきた。

・顔を出したらボーナスが出るよ
・顔を出した方が指名が増える
・フォトショップで加工するから身バレなんてしない
・AVで身バレしたなんて聞いたことがない。名前を出して単体デビューするわけじゃないなら、バレる確率はごくわずかだ

彼らはいつも最後にこう言った。「稼げるうちに稼いで、そのお金で夢を叶えればいい

しかし、彼らの言葉のほとんどは嘘っぱちだ。いくら加工を重ねても、顔の雰囲気ですぐに身バレする。実際、彼氏や親にバレて、その後消息が分からなくなった女の子を私は何人も知っている。

AVだって同じだ。かつてビデオテープで流通していた時代以上に、今はネットで簡単に拡散する。動画サイトを開けば、ありとあらゆる作品に何百本単位でアクセスできる。私自身も、知り合いが出演している作品を偶然見つけてしまったことがある。

「身バレは必ずする」、これは断言できる。


そして、その代償を抱えながら得られる金額は、実のところたかが知れているのだ。だが、この正直なリスクをきちんと伝えてくれる人はいない。私の場合も全顔モザイクが目出しになり、やがて薄くなり、ついには横顔まで出すことを許してしまった。

結局ある日同級生が突然店にやって来たことで、自分のしていることの危うさにようやく我に返ったが、もしその出来事がなかったら──今ごろ全国に私の裸やパネル写真がばらまかれていたかもしれない。

存在しない店、虚偽の条件…ダミー広告の罠

また、この求人の話をする上で避けて通れないのが「ダミー広告」の存在だ。ダミー広告とは、実際には存在しない店や仕事内容を掲載しておき、別の店に誘導するためのいわば“釣り広告”である。性産業ではこの規制が極端に甘く、私自身も何度も怖い思いをした。

まず、大手求人サイトに載っている「入店祝い金」「日給保証」は、ほぼ嘘だ。仮に本当に支払われるとしても、達成できないような条件を突きつけられるケースがほとんどである。

元風俗嬢の私が、AV女優のキラキラ化に反対のワケ。「短期間で稼げる」の言葉に釣られ、気づけば5年抜け出せなかった
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さらに「ソフトサービス」を謳い、時給単価を高く見せながら、実際は系列の別店舗に所属させる手口もある。「この金額で稼げるのはアイドル級の子だけ。だから指名が入るように、こっちのお店にも登録してね」そう言って、より単価が低く“ハードなプレイ”をさせる店に回されるのだ。

オナクラやメンエスの求人だと思って行ったら、実はデリヘルだった。
パーツモデルの求人だと思って応募したら、AVの面接だった。こうしたケースは「稀」ではなく、「多々」ある。

私自身も「普通の店」だと思って面接に行ったら、そこはSMプレイ専門店だったことがある。押しに弱い子であれば、そのまま流されてしまう可能性は十分にある。

そして求人者は知っている。結局働き終われば、多くの女の子がこう思ってしまうことを。「案外平気だし、短時間でこんなに稼げるのか」と。だからこそ、彼らはリスクを隠し、嘘を重ねて、より深い穴へと落とそうとしてくるのだ。

キラキラの裏側にある現実――性産業に潜むリスクと搾取

ここで紹介したのは、特別なケースではない。むしろ「よくある話」として業界にあふれている。かつ、実際に働いた先にも、ここには書ききれないリスクが多数存在する。やむを得ない事情があり、あの業界に足を踏み込むことを完全に否定するつもりはない。


だけど、性産業は決して“クリーン”ではないし、“一歩間違えれば命に関わる”リスクが常につきまとうこと。そして、求人側はそれらを包み隠してあなたを徹底的に搾取しようとしてくることを、ぜひ頭の隅に置いておいてほしい。

元風俗嬢の私が、AV女優のキラキラ化に反対のワケ。「短期間で稼げる」の言葉に釣られ、気づけば5年抜け出せなかった
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もちろん、「覚悟を持って選ぶ」人もいるだろう。しかし、「キラキラした未来が待っている」と信じて、安易に足を踏み入れるのはあまりにも危険だ。

今の時代、SNSには「性産業で成功した」という発信も溢れている。けれど、その裏で苦しみ、声を上げられずに消えていった女性たちも確実に存在している。

もし今、あなたが少しでも「やってみようかな」と考えているなら、一度立ち止まって考えてほしい。得られるお金や華やかなイメージの影で、失うものの大きさに気づいてからでは、遅いかもしれない。

<文/yuzuka>

【yuzuka】
エッセイスト、脚本家、婚活メディア「ナレソメノート」では編集長を務める。元精神科看護師と夜職の経験あり。著書『埋まらないよ、そんな男じゃ。』他3冊。
「五反田ほいっぷ学園」「愛の炎罪」等原作脚本
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