Snow Manラウールの演技が、ここに極まる……。毎週木曜日よる10時から放送されてきた本作『愛の、がっこう。
』(フジテレビ系)は、全話、全編いたるところに、ラウールの大粒の輝きがはめこまれている。

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 脚本、演出、演技、どのセクションの見せ方もこれ見よがしでないのがいい。さりげないからこそ際立つ。第1話から早くもラウールを写すお手本のような画面さえ確認できた。

 男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、9月18日放送の最終回を目前に、本作のラウールの魅力を解説する。

物語レベルを超えて……

 木村文乃主演ドラマ『愛の、がっこう。』は、7月期放送ドラマの中でもっとも注目された作品の一つだった。本作の主人公・小川愛実は、ミッション系女学院の高校教師だが、婚約者そっちのけで人気ホストのカヲル(ラウール)との恋愛関係を優先。加速度的に気持ちが傾く。

 この筋だけ聞けば、えっ、単なるホスト狂いの物語なの? と思ってしまうが、そんなに単純じゃない。物語は聖と俗の対比を基本軸として、愛実(聖)、カヲル(俗)双方の逡巡と葛藤がくっきり浮かび上がる構造的な作りだ。二人の出会いは、愛実がホスト通いをする教え子を指導する立場にあったことがきっかけだった。

 第1話終盤、その教え子をたぶらかしたりしないことを誓わせるために念書を書かせる。
それをきっかけに漢字の読み書きができないカヲルに個人授業を始めるなど、物語が展開する重要な描写である一方、ある印象的な要素が物語レベルを超えて、ガツンと視聴者を魅了した場面がある。

カヲルに沼る秒読みの瞬間

 決定的な一撃みたいな、そのガツン。どこからともなく画面外から躍り出るように現れ、画面内にストンと華麗に定着してみせる。そんな生粋のダンサーのようなカヲル役のラウールに思わず魅入ってしまう。

 なのにこちらが振り向くと、ひらり、するりとかわす。だからもっと虜になってしまう。それはどこか文学、オペラ史上名高い魅惑のキャラクター、カルメンの自由な性格造形をも思わせる。カルメン的な求心力を誇るカヲルを前に愛実も視聴者も沼るしかない。

 実際に本作の画面上、カヲルに完全に沼る秒読みの瞬間がある。愛実がカヲルに念書を書かせる屋上の場面。これまた魅惑の指先でカヲルがペンを握り、テーブルに見立てた室外機の前に座る。そしてカヲルが着る紅色のジャケットのセンターベントが風になびくまでの一連の動きを目で追う数秒間。3、2、1……。
はい、沼った!

ラウールを写すお手本のような画面

Snow Manラウールに全視聴者が“沼落ち”!最終回目前に『愛の、がっこう。』名場面を振り返る
画像:ジバンシィ ジャパンのリリースより
 風になびくジャケットのひらひらを一つの契機として、以降、このドラマ世界はカヲル色に染まる。全編を通じてラウールの演技が、色合い豊かなキャラクターの魅力を自由自在にどんどん配色していく。

 そこにさらなる魅惑の要素を塗り重ねるのが、カヲルの前髪だ。センターベント以上にやたら風に靡く。彼が念書を書いている間、美しい動きの前髪が執拗にひらひらする。その動きを強調するかのように、何カットも積み上げられる中で不意にローアングルが選択されていることも絶妙だ。

 風になびく美しい前髪のひらひらとローアングルの画面が、いかにラウールの演技を彩り、引き立てていたことか。それは単に撮影現場となった屋上が偶然、強風環境にあったからなのか。それとも確かな意図によって現場で演出されたものか。あるいは脚本上のト書きからすでに明記されていたのか。いずれにしろ、ラウールを写すお手本のような画面だったことは間違いない。

名場面の宝庫ドラマとしてアーカイブ化

 これについては本作の脚本家である井上由美子インタビュー(女子SPA!掲載)で直接聞いてみた。するとさすがにト書きで「風になびく前髪」などとは書かなかったという回答を得たものの、脚本家から見てもあのローアングルの画面は出色の演出だったと言う。

 さらに屋上場面によって「二人の関係が見えた」とも話していた。脚本家、演出家(『白い巨塔』や『シャーロック』など井上由美子作品で組んできた西谷弘監督)の共同作業が生み出す重要場面だった。でも第1話からこんなにさりげない名場面(画面)を見せられたら、そのあとの他に画面に対してどう期待したらいいのか?

 物語の筋、構造、展開力、そして演出と演技。これらすべてが流動するように噛み合う本作は、初回から最終回まで名場面の宝庫だ。その一つひとつにラウールの大粒の輝きが収められている。

 例えば、愛実とカヲルの関係性が両思いにまで深まる第6話のデート場面は、デート後の改札で互いの帽子を交換するなど、慎ましいエモーションが熱くチャージされる屈指の見せ場だった。でもここは、あくまでさりげなさに徹する本作のマナーから選ぶなら……。

 デート中の海辺場面かな。お調子者のカヲルが堤防の端まで歩き、ちょっとした曲芸でも披露するかのように、両手を舞上げる。生粋のダンサーのように踊る。ラウールの魅力が極まるこの身振りを見て、視聴者の心も静かに躍る。

 あるいはまた、最終回前の第9話前半で、事情聴取のために出頭するカヲルが歩道橋の真ん中で「うわぁ!」と短く叫ぶ場面(もちろんローアングルの画面だ)。
くるりと翻したサングラスを紅色ジャケットの胸元から目元に移動させる華麗な動きを含め、名場面の宝庫ドラマとして、ラウールのきらめき(演技)がここにアーカイブ化された。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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