この矛盾はなぜ起こるのだろうか? 同作を中心に、視聴率だけでは分からない夏期ドラマのネットで支持された作品の傾向を読み解きたい。
上位5作品中「3作品」が入れ替わる
まず、これまで世間的にヒットの指標とされてきた平均世帯視聴率を見ていくと、松本潤主演『19番目のカルテ』(TBS系)が唯一10%台と二桁に乗せ、大森南朋、相葉雅紀、松下奈緒のトリプル主演『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』(テレビ朝日系)が8%台。阿部サダヲ主演『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)が6%台、上川隆也主演『能面検事』(テレビ東京系)と斎藤工主演『誘拐の日』(テレビ朝日系)が5%台後半で続き、視聴率トップ5となった。
しかし、ネットでの指標を見ていくと5作中3作が入れ替わる。ネットで支持されやすい3大要素は「若年層、ドラマコアファン、禁断モノ」で、それを抑えているかがカギになる。

またその中で、Googleトレンドの過去90日間のウェブ検索数を見てみると、平均検索数1位が『放送局占拠』、2位が同率で『愛の、がっこう。』と『19番目のカルテ』、4位が『DOPE』、5位が『しあわせな結婚』となった。
若年層を掴んだ『放送局占拠』と『DOPE』
視聴率ではトップ5ながら、ネット指標に弱い『大追跡』、『能面検事』、『誘拐の日』の共通点は、手堅く世帯視聴率を取るため中高年層をターゲットにした作品だったと言える。一方、視聴率では苦戦しながらも、ネット指標に強い作品の中で『放送局占拠』と『DOPE』は、明らかに「若年層」をターゲットにしている。

若年層はスポンサーが重視するコア視聴率の対象であるだけでなく、ドラマをテレビではなくネットで視聴する習慣もあり、配信サービスへの流入も期待できる。

ただ、『19番目のカルテ』は物語が重厚で考えさせられる作品だったり、『しあわせな結婚』は考察合戦を呼び込む作品だっただけに、忙しい時間にTVで流し見するのではなく、じっくりと、あるいは繰り返し作品を視聴したい「ドラマコアファン」に支持された。
なぜ『愛の、がっこう。』はネットでウケた?
では、TVerお気に入り登録数トップ5に入り、ウェブ検索数2位となった『愛の、がっこう。』はどんな要素でネット上で支持を受けたのか。同作は、ホストと高校教師の恋愛を描くというセンセーショナルな作品だ。しかし放送開始直前には、悪質なホストクラブ問題対策として風俗営業法が改正されるなど逆風もあり、今作の低視聴率発進に繋がった。
ドラマコアファンと若年層、両方が支持する要素
ただ、木村演じる主人公・小川愛実の勤務先は高校であり、Snow Man・ラウール演じる読み書きができないカヲルに勤務外で特別授業をする。また愛実もカヲルもいわゆる毒親によって人生を左右されおてり、若年層にも身近な題材として受け止められた。
ラウールはホストとして一見チャラそうでいて、孤独で繊細、かつ純心なカヲルを見事に演じたことが評判になった。
また、安易にホスト文化を持ち上げるのではなくその闇もきちんと描いていたこと、2人の恋愛がじっくりと丁寧に描かれた純愛であったことなど、ドラマコアファンにも受けるような良質なドラマであったことも、ネット指標を押し上げた。
タブーに切り込む「禁断モノ」は伸びやすい
さらに、ネットでの支持を伸ばす3つ目の要因として、不倫などの「禁断モノ」が挙げられる。今作と同じ演出家で夫婦のタブーに切り込んだ『あなたがしてくれなくても』(フジ系)は、視聴率の苦戦と反比例するようにTVerで爆発的ヒットとなった。家族や第三者に隠れて、ひっそり視聴したい人々のニーズは一定層あり、禁断モノは表面的な視聴率よりネット指標が伸びやすい傾向にある。
『愛の、がっこう。』もホストと高校教師の禁断のラブストーリーと謳っていただけあり、高い登録数に繋がった。またウェブ検索数についても、周囲の人と気軽にシェアできない今作の感想などを、ネット上で確かめようとした表れだと考えられる。
以上のように、「若年層、ドラマコアファン、禁断モノ」という3大要素をきちんと押さえていた『愛の、がっこう。』は、ネットで支持される作品になるべくしてなったと言っていいだろう。
<文/こじらぶ>
【こじらぶ】
フリーライター・コラムニスト。言語学修士。男性&女性アイドル、地下、ローカルなど様々な現場を経験。