第5週第24回での初登場以来、変わらずキュートで人懐こい健太郎。
男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、定年退職した辛島健太郎役の高橋文哉を解説する。
イツメン三人衆もすっかりおじさん
今田美桜主演の朝ドラ『あんぱん』第24週第118回、『アンパンマン』の作者・やなせたかしをモデルとする柳井嵩(北村匠海)が、文芸誌『詩とメルヘン』創刊で忙しい。同誌は、やなせが編集長となって1973年に刊行された。嵩の馴染みの喫茶店でも話題になる。東京芸術高等学校時代の同級生で義理の弟でもある辛島健太郎(高橋文哉)、嵩が作詞を担当した「手のひらを太陽に」などの作曲家・いせたくや(大森元貴)。イツメンがカウンター席に並ぶ。
「トランペットを吹く少女」という詩が載るページを開いた健太郎が、嵩の才能を讃える。戦後はNHKのディレクターになった健太郎だが、自分のほうは「俺はもうすぐ定年退職ばい」とため息がちに言う。気づけば、イツメン三人衆もすっかりおじさんになった。
定年退職する健太郎は何歳?
カウンターに並んで座る三人揃って、1970年代という時代性を感じさせるメガネを装着している。俳優たちの実際の年齢はいずれも20代だから、自分より圧倒的に年齢が上の役を演じるにはこれくらい明確な小道具は必須だろう。NHKの朝ドラ恒例の老けメイクもきちんと施されている。顔のシミや白髪が一番多いのは嵩だが、健太郎もしっかり白髪交じり。
今の日本社会では(希望者には)65歳までの雇用が確保されなければならないが、1970年代当時は55歳での定年制が主流だった。ということは、「定年退職」とぼやく健太郎の年齢は54歳くらいということになるのだろうか(ちなみに『詩とメルヘン』創刊時のやなせたかしは54歳)?
朝ドラ初出演で演じる年齢幅

上述したように第24週では定年退職前の50代。とびきりキュートで薄桃色がかった空気感すらまとう高橋文哉が、朝ドラ初出演で、これだけの年齢幅を演じる。三人衆俳優の中では最年少(24歳)でもある。
上京してだいぶ経つというのに、変わらず人懐こい博多弁と「健ちゃん」という愛称、そしてどれだけ老けメイクを施されてもとびきりキュートであり続ける俳優本人の若々しさが、役柄の経年をとてもゆるやかに表現している。
恐縮する主人感も地味深い

「海」といえば、第7週第32回の浜辺の場面を思い出す。
あれは日本が太平洋戦争に突入する前夜の風景だった。まだ東京芸術高等学校の学生時分。たぶん、18歳か19歳。メイコとのツーショット長回し画面上、眉間をピチピチ動かして表情華やいだ。健太郎も若かった。
第123回では『アンパンマン』のミュージカル版『怪傑アンパンマン』がリハーサル中で、退職して暇を持て余す健太郎が手伝いにきた。メイコが演出家に「主人はNHKを定年退職して、時間だけはたくさんあるんです」と紹介する。思わず恐縮する健太郎の主人感もまた滋味深い。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu