母の喪失をきっかけに姉弟と疎遠になっていた父・初(遠藤)を演じた遠藤さんに、作品や監督への印象を取材。また家族の物語にちなみ、結婚35年目でマネージャーでもある妻との関係や、遠藤さんが不器用に料理に取り組む姿が人気の『きっちりおじさんのてんやわんやクッキング』(BS朝日)についても聞きました。
20代の監督の初長編映画に出演
――『見はらし世代』の脚本を読まれたときの印象を教えてください。遠藤憲一さん(以下、遠藤):不思議な作品だなと。すごく若い監督だったので、どういう風に撮るのか正直、分かりませんでした。それで以前に撮られた短編を見せていただいたら、すごく力があって、その短編で描き切れなかった部分を、長編で撮りたいんだなという意向が分かったし、脚本云々というより、とにかくその一発目の短編で力がある人だというのが分かりました。それでやってみようと思ったのが一番です。
遠藤:撮り方とかかな。あと脚本でも、後半にびっくりするような展開があるんだけど、そこが特別な感じじゃなくて普通に描かれているんだよね。
――後半の展開には本当に驚きました。
遠藤:ネタバレになるから詳しく言えないんだけど、一見、ホラーとかファンタジーにしちゃえるような出来事が起きるんだけど、そうはしない。それが斬新で。
下積み時代、風呂ナシ4畳半アパート暮らし…結婚で奮起した過去
――家族の関係を見つめた繊細な物語です。現場の雰囲気はいかがだったのでしょう。遠藤:現場はさ、俺と息子役の黒崎(煌代)くんがふたりともゲラだから、どちらかがわらい出すとすぐに移っちゃうから本当に大変だったんだよ。姉役の木竜(麻生)さんと3人のシーンとかは、彼女にも移っちゃって、3人でゲラゲラ笑い出しちゃったりして。そのうちいい加減、助監督が近づいてきて、俺と黒崎くんに「この映画はもしかしたら海外に評価される映画になるかもしれません。もっと集中してください」って。いい歳したオヤジと、20代の俳優が一緒になって怒られてました(笑)。
――物語上は疎遠な関係性でしたが、現場は仲良しだったんですね。そして事実、カンヌ国際映画祭へ出品されました。
遠藤:すごいですよ。
遠藤:20代はいろいろ勉強してたかな。映画を観たり、音楽を聴いたり、脚本を書いたり。
――収入はある程度確保できるようになってきていたのでしょうか。
遠藤:いや、まだだったね。バイトはしてなかったけど。29歳まで共同トイレの4畳半の木造アパートに住んでた。まだ何の潤いもなく。で、29歳で結婚して、これで共働きだからなんとかいけるぞと思っていたら、女房が結婚を機に仕事を辞めちゃって、「ああ、虫がよかったか」と。しばらくは借金しながらなんとか生活していました。
――そこから駆け上がっていきました。結婚を機に、改めて気合を入れ直したのでしょうか。
遠藤:そうだね。
円満夫婦の秘訣は「言われたことをどこまでちゃんと聞けるか」
遠藤:俺の中にも、そういう部分はあるんじゃないかな。良かれと思って突っ走っていると、誰かに迷惑をかけてしまっていることがある。そこはよく女房に注意されるよ。
――仕事を前にすると集中しすぎてしまう?
遠藤:そうだね。だから初のことも、当然全く一緒ではないけど、自分とかけ離れている役というわけではなかったよ。
――ただ遠藤さんの場合は、結婚で一度はお仕事を辞めた配偶者さんが、現在マネージャーを務められていて、公私の境なく二人三脚です。ご結婚して35年だそうですが、個人と個人が一緒に歩いていくうえで気を付けていることはありますか?
遠藤:少なくとも女性のほうが弁が立つし、ケンカしても強いよね。だから言われたことをどこまでちゃんと聞けるかがテーマになってくるんじゃない? あくまでも俺個人の印象としては、関係が離れていくところは、男の人が強くなろうとしているところかなって感じがするな。
“酒抜き”での友達はまだ見つかっていない
――では家族に限らず、人と付き合っていくうえで大切にしていることは。遠藤:俺は人付き合いはめちゃくちゃ下手だから。集団生活も苦手だし。昔は酒があったから集まりもあったけど、いまは酒も飲まないから友達っていうのもいないし、まだ見つかってないかな。
遠藤:お酒抜きだと人と付き合えない人っていうのは結構多いよ。
――役者さんや芸能界の方にお話を伺うと、「人付き合いは苦手、人見知り」と言う方が多い気がします。
遠藤:そうかもね。みなさん、仕事で集中できればね。でも若い俳優ですごい人を見たこともあるよ。人付き合いがめちゃくちゃ上手というか。俺の100倍はすごい。ただ俺から見ると生きづらいんじゃないかとも感じたけどね。
人気料理番組の裏側は「倒れる寸前」本音を吐露
――もうひとつ伺わせてください。俳優業以外でも、遠藤さんは垣間見えるお人柄でも支持されています。スペシャルからスタートして、今年からレギュラー放送になった『きっちりおじさんのてんやわんやクッキング』も人気です。どんどん上達してますね。※料理初心者の遠藤さんが、食材買い出しに始まり、いろいろな料理に挑戦していく自炊ドキュメント番組。これまでにオムライスやロールキャベツなどに挑戦。
遠藤:そう!?どういうところが?
遠藤:楽しくないよ。大変だもん。何やってるか、全然覚えてない。2本撮りなんだけど、1本撮り終わったら、2本目は何しているか分かんないまま、見よう見まねでやってるだけ。倒れる寸前だよ、本当に。
――(笑)。
遠藤:しないよ。番組に使うものは番組で買うから。自宅に?女房は買ってるみたいだけどね。
――遠藤さん自身が、家でも料理してみようかなとは。
遠藤:とにかく一生懸命やってるんだけど、番組でやったものを、家でもやろうという気にはまだならないかな。番組が終わったら気持ちがどうなるか分からないけど、いまはまだないね。
――今まで遠藤さん(マネージャーさん/遠藤さんの妻)に何か披露されたことは。
マネージャー:最近は魚を焼いたよね。
遠藤:あ、そうだね。
26歳新鋭監督との出会いで「演技の原点に返らされた」
遠藤:リアルに人間を描く若い監督と、一緒に仕事ができました。でき上がった作品を観たとき、本当に不思議な力のあるものになっていました。団塚監督は、現場でもスタッフの中でも一番年下なのに、こだわってこだわって向き合っていました。周りも「もういいんじゃ?」と言える雰囲気じゃなくて。でもただ迷っているんじゃなくて、監督にしか分からない世界があるのがこちらにも分かった。だからひたすら監督の求めた通りにして、自分の無駄なものを全部そぎ落とされました。演技の原点に、もう一度、返らされた気がします。すごく新鮮でしたね。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
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【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
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