岡部は2024年4月から放送された朝ドラ『虎に翼』でも、主人公・寅子(伊藤沙莉)の父親・直言を演じている。わずか1年半後に朝ドラでまたも主人公の父親として起用されたことになり、そのあまりに登板間隔の短さに放送前は驚かされた。ただ、放送後には、すぐに納得のキャスティングであることに気づく。そこで岡部がなぜ司之介に適任なのかを語りたい。
司之介への不満の声が見当たらない
武士の時代が終わり、ちょんまげをやめて普通に働き始める人が増えた明治時代が舞台。しかし、元上級武士の司之介はその誇りを胸に、なかなか職に就こうとしない。ただ、意固地になっても生活はできないため、かつての部下である金成初右衛門(田中穂先)の誘いに乗り、ウサギ販売という商いを始める。当初は軌道に乗っていたものの、ウサギバブルは早々に崩壊。司之介は多額の借金を負うことになり、貧しき者たちが暮らす“橋の向こう側”での生活に転じた。トキは教師になる夢も、学校に通うことも諦め、借金返済のために馬車馬のごとく働く日々が始まる。
本作は司之介という“毒親”を断罪する物語ではない。トキの歩みや、後々に夫となるレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)との交流がメインではある。
気の良い親戚のおじさん感、という愛らしさ
司之介を許しているのは登場人物も同様だ。第5話ではトキや母親のフミ(池脇千鶴)からハードなイジリをされていたが、そこに明確な怒りはない。ドラマや映画で「やらかしたキャラを周囲の人間が許す」というケースは多い。ただ、「なぜそんな簡単に許すのか?」と思い、やらかしたキャラ以上に登場人物の寛大さにモヤモヤさせられる瞬間は少なくない。
一方、トキやフミが司之介に対して怒りの感情を持たないことに違和感はない。それは司之介に“気の良い親戚のおじさん”のような雰囲気を持たせ、どこか許したくなる愛らしさを岡部が表現できているからだ。トキの人生を転落させた張本人ではあるものの、決して悪役には映らない。それは岡部だからこその巧みさであり、司之介を務めることに納得感を与えている。
誰もが持つ弱さや愚かさを感じさせる、人間臭い演技
岡部が演じる役を“ついつい許したくなる”のは司之介に限らない。2022年に放送された『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系)で、岡部はテレビ局に勤務する村井喬一を演じ、部下でアナウンサーの浅川恵那(長澤まさみ)に「ババア」などハラスメント発言を連発した。つまりは長澤まさみの容姿をバカにしているわけだ。また、『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)では、主人公・三馬太郎(中村倫也)が所属する消防団を裏切る徳田省吾を演じる。ストーリー中盤に省吾が裏切り者と発覚するが、やはりいらだちは覚えない。むしろその心情を慮りたくなる。ハラスメントや裏切りを見せるキャラであっても、岡部が演じるとその言動は毒々しくならない。
その理由として、人間臭さを示していることが大きいように思う。誰もが持っている弱さや愚かさを岡部が演じるキャラからは感じられ、ついつい自分自身と重ねて感情移入したくなる。だからこそ、どれだけ誤った行いだったとしても、そのアクションに至った経緯や心情を察し、糾弾するどころか寄り添いたくなってしまう。
どこに行っても愛されるおじさんとして、視聴者の給水所になってくれる岡部たかし。『ばけばけ』でも、癒しを与えてくれることを期待したい。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。