竹内涼真が演じるから見ていられるのか、竹内涼真が演じても見ていられないのか……。毎週火曜よる10時放送のドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)の主人公・海老原勝男がかなりクセモノキャラなのである。


「めんつゆは手抜き」と言い放つ…超強烈キャラだけど“竹内涼真...の画像はこちら >>
 困ったくらい古くさい価値観を周囲に撒き散らす。女性は家庭的に「筑前煮」を作るべき。ひたすら同語反復。でも不思議とこの同語反復がパワーワード化するのが、本作の面白いところ。

 男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、主人公にとっての筑前煮の意味を考えながら、竹内涼真の演技を解説する。

「筑前煮」がパワーワード化

 竹内涼真主演ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第1話中盤、主人公・海老原勝男(竹内涼真)がどこか上方を見つめ、「筑前煮って禁句じゃないよな」と呟いた。自分はモテてきたはずだったのに……。ミスター&ミスコン(時代錯誤といっていい催しだが)カップルとして大学時代からの彼女・山岸鮎美(夏帆)にフラれたばかり。

 本人曰く「完璧」に準備したプロポーズは完膚なきまでに撃沈。たまたま友人から誘われた合コンに参加してみたが、女性は料理上手でなければという旧態依然とした価値観がことごとく嫌われる。

 今度は逆ナンされるものの、女性は「筑前煮」を作れてなんぼなどと暴論を飛ばして嫌われる。

 大企業に勤務するハイスペックなエリートサラリーマン勝男は、誰の前でも「筑前煮、筑前煮」と繰り返し、嫌われ男になってしまった。彼がぼそり呟いた「禁句」というワードの代名詞が「筑前煮」を意味するまでに……。
本作では不思議とこの料理名がパワーワード化する。

彼は筑前煮の歴史を知っているのだろうか?

 元カノが作ってくれた筑前煮大好き男の同語反復に対して、SNS上では腹立つが笑えると話題で、本作タイトルと主演俳優名はすぐにトレンド入りした。

 前時代的価値観の男性がアップデートしようとする物語。令和のドラマの基本フォーマットの中、筑前煮が連呼され、パワーワード化するのが興味深い。

 勝男は大好きな筑前煮を「禁句」扱いにすることで、自らをアップデートするきっかけを得る。会社の後輩たちは、自分で筑前煮を作ってみたら、大変さがわかるのではないかと促す。ここでドラマタイトルの意味がわかる。

 料理は女性の役割という暴論を反証するように、勝男は夜な夜な筑前煮作りに励む。

 完成した駄作に心が折れるが、料理好きの献身的な後輩・白崎ルイ(前原瑞樹)からこんな疑問を投げかけられる。「めんつゆの材料って知ってます?」。めんつゆは手抜きだと豪語してきた勝男はもちろん知らない。

 ここでさらに浮かぶのは、筑前煮を愛好している勝男は、そもそも筑前煮の歴史を知っているのだろうか? という疑問符。

筑前煮は戦意高揚のパワーフード?

 筑前煮は福岡の郷土料理であり、地方ではがめ煮と呼ばれる。1592年、豊臣秀吉治世下の兵士たちが出征前に食べていたらしい。
当時は鶏肉ではなくスッポンを使い、滋養と強壮効果がよりパワフルな料理だった。

 そうした歴史の背景を踏まえるなら、勝男にとっての筑前煮はただ家庭料理の代表格というより、彼がバリバリ働くための戦意高揚のパワーフード的側面を意味している。

 たぶんそんな背景まで知らないと思うが、ホモソーシャルな“男社会”を固く守る彼は遺伝子レベルで筑前煮に反応しているのだと思う。

 今さらカビの生えた社会性を堅持されても辟易するだけだが、でも筑前煮パワーを源とする主人公を竹内涼真が演じることで、ちょっとこの人憎めないよなというお茶目さを醸してしまうのが不思議でもある。

 決して好感は持てないが、もうこの際好意的に見てやろうと視聴者が半ば諦めるほどなのだ。

竹内涼真のテンポ感で手際よく

 X上の視聴者コメントを読んでみると、さすがの竹内涼真のさわやかさをもってしても海老原勝男役への好感度自体はゼロに等しい。でも彼の生態を徐々にサクサク楽しんで見られてしまうのは、竹内の演技が強烈なキャラをテンポよく運んでいるからだろう。

 これがただただねっとり嫌みな感じでじっとり演じられてはたぶん見ていられない。そこで竹内は悪気がないほどすっとんきょうなキャラの空気感を独特の間合いで表現する。後輩から筑前煮を作ってみたらどうかと言われる場面は顕著な一例だ。

 勝男には意外な提案だったのだろう。「作る? 俺が 料理?」と思わず自問する。
ここで竹内は短い3つのワードそれぞれに合わせて動く。カメラが寄りながら下手から上手へ移動する中、「作る?」と「俺が」で(カメラ)移動方向(上手側)にまず視線を動かしておく。「料理?」で逆方向(下手側)へ翻る。

 こうした間合いのテンポ感で手際よく勝男役をリズミカルに躍動させる。竹内涼真の演技だから見ていられる。竹内涼真の演技だから勝男のアップデート物語の爽快な展開が期待できる。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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