2026年3月10日、連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合)第23週第112回に再登場した英語教師・錦織友一が視聴者を驚かせた。

 弟からの手紙を読む横顔。
彼は結核を患い、痩せこけていた。同役を演じる吉沢亮は、この変化を、13キロもの減量で表現したのだ。

 俳優が驚異的な役作りをする例はたくさんある。歴史的名演も含まれている。一方で功罪があるのも確かだ。“イケメン研究家”加賀谷健が解説する。

古今東西、過剰な役作りの功罪

 1980年公開、マーティン・スコセッシ監督作『レイジング・ブル』で、伝説的ボクサーであるジェイク・ラモッタ役を演じたロバート・デ・ニーロは、現役時代の肉体と引退後の肥満体を表現するために、体重を30キロも増減させた。

 デ・ニーロは第53回アカデミー賞で主演男優賞を受賞。映画史の名演とされる。極端なビジュアルの変化も厭わない、過剰なまでの役作りは「デ・ニーロ・アプローチ」と呼ばれる。これは、役柄の内面性をあらゆる角度から徹底的に深掘りする、ニューヨークの演技スクール「アクターズ・スタジオ」仕込みの演技法(メソッド)に由来する。

 反面、過剰な役作りが監督の意図する演出を損なうこともある。巨匠アルフレッド・ヒッチコックなど、俳優にはニュートラルな演技を求める演出家も古今東西、たくさんいるからだ。
それでもデ・ニーロ・アプローチを信奉する俳優はまだまだ多い。演出面に限らず、その功罪はいたるところにある。

俳優にとって体重の増減は必須なのか?

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『マシニスト』(2004年)で30キロ近く減量したクリスチャン・ベールもまた、極端な増減を繰り返すタイプの俳優として有名。

 同作でげっそりしたベールを見ると、いくらフィクションの世界での成果物(演技)とわかっていても、何だか俳優本人の健康面が心配になってくる。プロの指導の下、(俳優の)身体管理は万全とはいえ、俳優も人間である以上、無理は禁物だろう。

 そもそも俳優の役作りにとって、体重の増減は必須なのか? そのことを改めて考えさせるような問いを、日本のある精神科医がX上で投げかていた。そのポストの主旨はこうだ。

 日本のメディアは、自在に体重を増減させる俳優たちの役作りをもてはやす風潮があり、それが視聴者や観客たちにまで無理なダイエットを助長させるのではないか、というもの。これは、連続テレビ小説『ばけばけ』で、役柄の変化に合わせて13キロも減量した、吉沢亮演じる英語教師・錦織友一の再登場回(第23週第112回)を踏まえたポストだった。

日本人俳優たちが果敢に挑むアプローチ例

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 俳優とは一つの職業だ。健康を害す可能性がある役作りは、職務上の課題点を孕んでいる。デ・ニーロがオスカーに輝いた1980年代なら、時代的に芸術の名の下において全てが美化された側面は否めない。

 しかし時代は違う。
演技する上での危険性には一つひとつ、慎重にならざるを得ない。そして作品が与える影響は常に念頭に置く必要がある。

 映画評論家・町山智浩氏はX上で先のポストを引用して「痩せた役は痩せた俳優さんが演じればいいし、太った役は太った俳優さんが演じればいい」と指摘していた(2026年3月10日)。確かにそれもそうかもしれない。いや、でも随分極論でもある。一概にそう言い切るには、プロ意識に個人差があるのも確かだからだ。

 2015年の鈴木亮平は、『天皇の料理番』(TBS系)で20キロ減量、逆に『俺物語!!』では30キロも増量して驚異的な増減で見る者を圧倒した。彼の役作りはデ・ニーロ・アプローチ的だと言われることもある。

 ゆりやんレトリィバァも主演ドラマ『極悪女王』(Netflix、2024年)で増量。時代を遡ってもいい。松田優作は主演映画のために奥歯を抜いた。日本人俳優たちが果敢に挑むアプローチ例はいくらでもある。


 彼らの探求心が、他にはないプロの仕事を生み出すこともまた確かではある。『ばけばけ』での吉沢再登場場面を見ると、奥行きある画面手前で痩せこけた輪郭を浮き上がらせながらも、一挙手一投足は極めてニュートラルで的確な動き方だった。

 極端な体重の増減に代表される役作りは千差万別であり、特に吉沢のようにニュートラルでもある演技は誰でも出来る芸当ではないことは強調しておきたい。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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