もしもワープドライブに失敗したらどうなるの?最新の科学が示す答え

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 宇宙のどこかで超高度文明の船がワープドライブを失敗したらどうなるのだろう?

 一般的にはSF世界のものとされるワープドライブだが、実は理論物理学でもその概念が研究されている。

  ロンドン大学クイーンメアリー校をはじめとする研究チームは、有力なワープ理論「アルクビエレ・ドライブ」が故障したとき、周囲の空間に何が起こるかシミュレーションしてみた。

 その結果、アインシュタインが予言した「重力波」が生じるだろうことがわかったのだ。もしそれを検出できれば、それこそが地球外の超高度文明の存在の証になる可能性があるという。

ワープを実現するには?

 この宇宙において、光を上回るスピードは実現できない。これはアインシュタインの一般相対性理論による物理的な縛りだ。

 では未来の人類が、光速ですら遅すぎるような宇宙の大海原へと進出するにはどうすればいいのだろうか?

  じつは光速を超える高速、俗に言う「ワープ」を実現するヒントもまた一般相対性理論が教えてくれる。

 重要なのは、大きな重力を持つ物体があれば、時空が曲がるということだ。

 この宇宙の謎めいた性質を利用すれば、光速を超えられないという絶対のルールを破ることなく、光速を超えられるかもしれない。

 SFではお馴染みのワープだが、現在の地球の技術レベルではまだ不可能だ。

 だがその有力な理論ならすでにある。それがメキシコの物理学者ミゲル・アルクビエレが考案した「アルクビエレ・ドライブ理論」だ。

 アルクビエレ・ドライブでは、超光速を実現するために、時空の歪みを利用する。

 すなわち宇宙船を”ワープバブル”なる泡で包んだうえで、前方の空間を収縮(ビッグクランチ)させつつ、後方の空間を膨張(ビッグバン)させる。すると、まるで川を流れるボトルシップのように、時空の流れによって機体が押し流される。

 この理論には負の質量が必要など課題もあるが、もしも実現できれば、光速は超えられないというルールを破ることなく、光よりも速い移動ができるようになる

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もしもワープに失敗したらどうなるのか?

 どんなに進んだ文明でも事故を100%防ぐことはできないだろう。

 もしも途中で何かのトラブルが起きて、ワープバブルが弾けてしまったらどうなるのだろう?

 もちろんアルクビエレ・ドライブは理論でしかないが、その仕組みは比較的くわしく説明されている。

 そこで今回の研究チームは、これに基づいてアルクビエレ・ドライブが失敗したときの状況をシミュレーションしてみることにしたのだ。

ワープで事故ると高周波の「重力波」が生じる

 その結果、ワープで事故ると高周波の「重力波」が生じるだろうことが明らかになった。

 重力波は、一般相対性理論によって予測された時空を広がる波紋のようなもので、質量をもつ物体が加速することで発生する。

 理屈の上では、車の加速でも発生するが、それでは質量が小さすぎ検出できるような重力波は生じない。

 だがブラックホールや中性子星のような大質量天体が螺旋を描きながら衝突するような状況では、この地球でも検出できる重力波が発生する。

こうした重力波が地球に生命をもたらしたという仮説もある。

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ワープ失敗が検出できれば、地球外高度文明の存在を示せるかも

 ただしシミュレーションでは、ワープの失敗によって生じる重力波の周波数は、それよりもっと高いだろうことが示唆されている。

 だからLIGOのような今ある重力波検出装置では、これを捉えることができないが、未来の重力波検出器ならばキャッチできるかもしれない。

 残念なのは、この話が現時点ではただの推測でしかないことだ。

 そのためワープの失敗を探すという目的だけのために、新しい重力波検出器の開発を進めるのは難しいだろうと、研究チームは述べている。

 それでもまだ希望はある。

 というのも今回の研究では、ワープ失敗によって、負と正のエネルギーの波が交互に広がるだろうことも判明しているからだ。

 もしも、この波がごく普通の物質にも作用するのだとすれば、これを利用して事故ったワープを検出できるかもしれない。

 仮にできなかったとしても問題ない。なぜなら、この研究の本当の価値は、失敗したワープを検出することではないからだ。

 むしろ負のエネルギー時空の力学を正確にモデル化し、それをほかの物理学的な研究に応用することこそが一番大切なポイントなのだとか。

 それによって、宇宙の進化や起源の解明がさらに進むと期待できるそうだ。

 この研究は『Open Journal of Astrophysics』(2024年7月25日付)に掲載された。

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