
マリーナ・チャップマンさんは驚きの過去を持っている。現在は英国に移住して家族を得て新たな生活を送っているが、子供の頃、誘拐され南米コロンビアの深いジャングルの中に捨てられ、サルに育てられたという。
現在73歳のマリーナさんは、オマキザルに育てられ、彼らのように食べたり、木にぶらさがったり、木の幹にあいた洞で眠ったりする術を覚えたと主張している。
さらにジャングルの中で発見された後、無理やり性産業に従事させられ、そこから抜け出して英国にわたり、ウェストヨークシアで、夫と子どもたちと普通の人生を歩み始めるという波乱万丈の人生を歩んだそうだ。
サルに育てられたという女性
現在はふたりの娘の母であるマリーナさんは、2013年に娘と共に一冊の本を出した。
その著作『The Girl With No Name』の中で、自分の数奇な物語を世界に発表した。
マリーナさんの驚くべき旅は、ベン・フォーグルシリーズ「New Lives in the Wild」で新たに取り上げられて放映が開始された。
マリーナさんの末娘であるヴァネッサ・フォレロさんが、母親の足跡を追っている。
いったい、マリーナさんになにがあったのか? その信じられないような過去と、英国郊外での新たな人生について見ていこう。
4歳の時ギャングにさらわれジャングルに置き去りに
マリーナさんがさらわれたのは当時4歳、1954年のこと。そのころのコロンビアは、ギャングによる子どもの人身売買が日常茶飯事だった。
「黒い手に白いハンカチで口を覆われたのを覚えています。誘拐犯はふたりでした」マリーナさんは以前語っている。
しかしその後、理由は不明だが、マリーナさんは熱帯雨林のジャングルの中で置き去りにされた。
オマキザルの群れに仲間として受け入れ5年間ともに暮らす
2日ほどたった頃か、マリーナさんはオマキザルの群れを見つけ、その身振りを真似し始めた。
オマキザルは南米や中央アメリカの熱帯雨林に生息する夜行性で樹上生活を営む小型ノサルだ。とても社会性が高く、鳴き声でコミュニケーションを取る。
彼女はサルたちがどの木の実や果実を食べるのかを観察し、彼らが落としたバナナを拾ったり、彼らが使う水飲み場から水を飲んだという。
ついにマリーナさんが四つ足で歩き、しゃべるのをやめると、サルたちは彼女を仲間として受け入れ始めた。
ある日一匹の子どもが私の肩に乗って来たんです。もし抱きしめられた経験がなくても、サルが顔に手を触れてきたら、最高に気持ちのいい感触だと言っていいでしょう(マリーナさん)
ハンターに発見され性産業で働かされた後ストリートチルドレンに
結局、マリーナさんは5年ほどジャングルでサルたちと暮らし、ハンターに発見された。
あるとき、サルたちの危険を知らせる不穏な声があたりに響き渡りました。ハンターの捕獲用ネットだったのです。それは、ハンターが狙うあらゆる生き物を捕らえ、盗むためのものです
そこで見つかったマリーナさんは、ククタの売春宿に売られ、その後、ストリートチルドレンになり、最終的にメイドとしての仕事を見つけることになった。
メイドとして働いていた家族とともに英国へ
マリーナさんはコロンビアの首都ボゴタで10代後半になるまで働き、その後同じくメイドとして働いていた家族と共に移住を目指して英国への旅に出た。
そこでマリーナさんの人生が大きく変わった。
英国で結婚し子供が生まれる
1978年、一家とマリーナさんはブラッドフォードで半年あまり過ごしていたが、そこでマリーナさんは、福音教会のオルガン奏者だったジョン・チャップマンさんと出会い、恋に落ちた。
結婚したジョンさんとマリーナさんの間には、現在43歳のジョアンナと40歳のヴァネッサというふたりの娘ができた。
ジョンとマリーナさんは今も、ブラッドフォード郊外アラートンにある3ベッドルームの家に住んでいる。
とはいえ、最初はマリーナさんにとって〝普通の生活〟への切り替えは簡単ではなかった。適切な服装をすることから食事の仕方まで、すべてを学び直さなくてはならなかったからだ。
次女のヴァネッサさんは、母親のマリーナさんが学校に迎えに来たときに、よく木からぶら下がっていたことを覚えていた。
マリーナさんは子どものころに身についた野性的な傾向を捨てきれていなかったのかもしれない。実際、マリーナさんは警戒するように口笛を吹いたり、木の枝に登って手を振ったりすることも多かった。
ほかの母親はそんなことはしないのはわかっていました。でも、それが私たちのママでした。遊び心のあるおちゃめな母親なのです
ママは外にいるのが好きで、裏庭に障害物コースを造ったり、サルの鳴き声を真似たり、よく木に登ったりします。
うちで飼っているペットは、ママが私たちのために捕まえたものばかりでした。逃げてしまいましたが野ウサギが数羽、カモメが1羽いました
マリーナさんの話に懐疑的な声も
マリーナさんの本が出版されたとき、懐疑的な声もあった。マリーナさんはただの空想家だとか、子どものころのトラウマのせいで、脳が誤った記憶を作りあげているだけだと言う者もいた。
だが、ヴァネッサさんは、すべては真実だと確信している。
母が本当にジャングルで生活していたのかどうかを判断するために、さまざまなテストが行われました。それほど多くの人がこの話はウソだと思っていたのです。
彼女が私の母親でなかったら、私もそう疑ったかもしれません。
検査の結果、母の血液中にジャングル特有の病原菌が潜伏していることがわかりました。母の話が本当でなければ、そんなものがいるはずがありません
マリーナさんの長女ジョアンナさんは公務員になって結婚し、3人の子どもたちと共に英国北部のリーズに暮らしている。
ヴァネッサさんはというと、英国を離れ、マリーナさんが女ターザンのように暮らしたコロンビアのジャングルと同じような場所に家を構えている。
マリーナさんは最初、ヴァネッサさんのコロンビア暮らしをとても心配した。
コロンビアの生活が楽で安全だとは一度も思ったことがないので、最初は娘の身がとても心配でした。でも今はもう心配していません。
ヴァネッサは賢明な娘なので、窮地に陥るようなことはないでしょう。彼女をとても誇りに思っています