
深海魚の中にはその厳しい環境で生き抜くために、われわれの想像を超えるような不思議でエキセントリックな進化を遂げている者たちがいる。
ホウライエソは、頭部のサイズに対して歯の大きさが最も大きい生物としてギネス記録に認定された、異世界のクリーチャーとしか言いようのないルックスを持つ魚だ。
アメリカのカリフォルニア州にあるモントレーベイ水族館研究所(MBARI)の無人探査機がとらえた、「ホウライエソ」の魅力に迫ってみよう。
大きすぎて口からはみ出すほどの歯を持つホウライエソ
ギネス世界記録によれば、ホウライエソは、頭部に対する歯の大きさが最も大きい魚である。
その鋭い歯は頭の長さの半分以上を占め、口を閉じても顎を越えて突き出している。そのため、獲物を飲み込む時には口を大きく開け、顎を垂直にしなければならない
以下の映像は、アメリカのカリフォルニア州にあるモントレーベイ水族館研究所(MBARI)の無人探査機がとらえた映像である。
映像に出てくるのはヒガシホウライエソで、日本近海を含む温帯~亜寒帯域の、500~2,500m程度の深海に棲むホウライエソの仲間である。
ちなみにホウライエソとヒガシホウライエソの違いは、ヒガシホウライエソのほうが上顎の3番目にある歯が、4番目のものよりも大きいこと。
そして目の後ろに涙型の発光器官があることくらいだそうだ。というわけで、ここではホウライエソも含めた特徴についてみてみよう。
厄介な面も多々ある「大きすぎる歯」
口を大きく開いてエビや小魚などを食べるのだが、この牙が檻のような役目をして、生き物の乏しい深海において、捉えた獲物を逃がさないように進化したらしい。
特徴的な牙のためか、英語の名前は「毒蛇魚(Viperfish)」。だが、頭の大きさに比べて歯が大きすぎるため、いろいろと不都合も生じている。
まずせっかく捕らえた獲物を飲み込むのにも一苦労だ。歯に邪魔されずに獲物を飲み込むためには、顎を最大限大きく開かなければならない。
そのためホウライエソの口は、90度の角度まで開くようになっている。
さらに胃を拡張することで、体長の最大63%の大きさの獲物を食することができるそうだ。
しかし中には歯が邪魔してうまく獲物を飲み込めず、餓死してしまった個体もいるらしい。こうなるとこの牙は、諸刃の剣ともいうべきものなのかもしれない。
とにかく獲物の乏しい深海においては、食べられるときにめいっぱい食べておくことが、生き延びるためにも必須なのだろう。
アップにするとさらに怖い。
深海で獲物を見つけるための機能も充実
また、ホウライエソの体表には発光器官があり、黄色~青緑色に発光する。これにより獲物を誘ったり、あるいはその光で体を海の色に同化させ、獲物の目を誤魔化したりしていると考えられている。
背びれの一部が長く伸びていて、一説にはその先に発光器がついているとも言われているが、これには懐疑的な研究者もいるようだ。
いずれにせよ、チョウチンアンコウの誘引突起のように、獲物をおびき寄せる目的で使われているのは間違いないだろう。
参考までに、CGで作られたホウライエソの映像があったので貼っておこう。