
世界保健機関(WHO)が実施したこれまでで最大で、包括的なレビュー調査によると、携帯電話と脳腫瘍に関連性がないことが明らかになったという。
5000本以上の研究から科学的に厳密で信頼できるものに絞って行われたこの調査では、携帯電話をどれだけ使っても、脳をはじめとする中枢神経のがんになることはなく、頭部や首に腫瘍を生じさせることもないことが確認された。
全体的に見て携帯電話と脳腫瘍に関係がないのはもちろん、たとえ10年以上の長期にわたり携帯電話を使用していても発症率が高くなることもなかった。また、どれだけ頻繁かつ長く使用していてもやはりリスクは上がらなかったという。
研究者はこの結果に自信を持っており、人々は安心できるだろうと述べている。
携帯電話から発する電波の量はどれくらい?
携帯電話、スマートフォン、ノートパソコン、ラジオ、テレビなど、無線で通信するあらゆる機器は電磁放射線、つまり電波を出している。
今回の調査の筆頭著者であるオーストラリア放射線防護・原子力安全庁(ARPANSA)のケン・カリピディス氏は、「放射線という言葉は、核放射線と誤解されがちです」と、The Guardianで語っている。
「放射線とは、ある地点から別の地点へエネルギーが移動する現象」だ。だから太陽の紫外線も放射線であって、私たちは日頃から多かれ少なかれ放射線にさらされている。それでも普通はそれで健康を崩すようなことはない。
実は電波も同じだそうで、私たちは常日頃から無線機器などから発せられる低レベルの電波にさらされている。
携帯電話もそうした機器の1つで、それによって浴びる電波はやはり低レベルだという。
ただし携帯電話の場合、頭の近くで使用されるため、ほかの無線機器に比べれば曝露レベルが高くなるところがこれまで懸念されてきた。
初期研究ではバイアスがかかっていた
実際、携帯電話とがんとの関係を調べた一部の初期の調査では、それによって脳腫瘍ができやすくなる可能性が示唆されていた。
この結果を受け、国際がん研究機関(IARC)は、携帯電話の電波を「発がん性がある可能性がある」に分類している。
だがカリピディス氏、そうした研究はバイアスがかかりやすい設計だったのだと指摘する。
被験者は過去を振り返ってどれだけ電波にさらされたか報告するので、腫瘍のある人ほど過剰に電波にさらされたと報告しがちになるのだ。
こうした点が問題視され、2019年にWHOはARPANSAに依頼し、携帯電話とがんとの関連性がより体系的に調査されることになった。
もっとも包括的で厳選された過去最大の調査
その結果、冒頭で述べたように、携帯電話と脳腫瘍のなりやすさに関連性がないことが判明したのだ。
過去最大となるこの調査では、関連する5000本以上の研究を調べ、科学的に信頼性の低いものを除外した。
最終的に1994~2022年に発表された人間を対象とする63件の研究を分析して、携帯電話で本当に脳腫瘍になるのかどうか調べた。
それによると、携帯電話で中枢神経系のがん(脳、髄膜、下垂体、耳を含む)のリスクが上がることはなし、唾液腺腫瘍や脳腫瘍とも関係がないという。
たとえ10年以上使っていても脳や頭部・頚部のがんとの関係は認めらないし、使用頻度も関係がなかった。
携帯電話と生殖機能の関連性もほとんどないことが判明
なおWHOが委託した別のレビューでは、携帯電話と生殖機能との関連性が調べられている。
そして男性についてはほとんど関係がなく、携帯電話の使用と精子数の減少とにも関連性は見出されなかったという。
女性の生殖機能については、携帯電話が生まれてくる赤ちゃんの体重に影響するなど、いくつかのケースで関連性が認められたが、それは電波の曝露レベルが安全基準を大きく超えた場合に限るという。
カリピディス氏らは第二弾として、白血病や非ホジキンリンパ腫など、これまで携帯電話とあまり関連がないとされてきたがんの調査に取り組んでいるとのことだ。
この研究は『Environment International』(2024年8月30日付)に掲載された。