
現代人はネットのある生活が当たり前になっており、アクセスできない環境に耐えられない。それは愛国心あふれるはずの米海軍の士官たちですらそうだ。
軍艦に乗るクルーたちのネットアクセスは制限されている。これは任務のための回線確保やサイバー攻撃からの防衛など、洋上での安全性を確保するためだ。
ところが、情報公開制度法にもとづくNavy Timesの報道によれば、米海軍の沿海域戦闘艦マンチェスターの幹部たちは、艦上でネットが使えないのが我慢できず、ひそかにスターリンクのアンテナを設置したという。
米海軍上層部が軍艦に秘密裏にWi-Fiネットワークを設置
この不祥事の首謀者は、沿海域戦闘艦、マンチェスターの下士官グリセル・マレロ指揮上級上等兵曹(当時)だ。
2023年初頭、彼女は2800ドルでスターリンクの機器を購入し、沿海域戦闘艦、USSマンチェスターの艦上にこっそり設置する計画を立案。
この企てには少なくとも15人の幹部が関与しており、彼らは海上で極秘にネットを楽しんでいた。
スターリンクのアンテナは、高所での作業期間中に設置されたようだ。
実際に誰が設置したのかまでは不明だが、艦が西太平洋に向けて出航する前の晩にシステムは起動されたという。
前述したように、艦上でネット接続が制限されるのは船の安全を守るためで、マレロたちの行為は非常に危険なものだ。
にもかかわらず、彼女らはスターリンクのセキュリティ対策をあまり重視していなかったようだ。
そのネットワークを「STINKY(クサいやつ)」と呼び、艦内のWi-Fi電波が十分でないことわかると、ハワイ停泊中にルーターとケーブルを購入して接続の改善を試みている。
一部のクルーは怪しいネットワークの存在に気づき、マレロを問いただしているが、彼女は嘘で誤魔化し、その後ネットワーク名を無線プリンタに見せかけたものに変更。
マレロはさらに、艦長の”意見箱”に寄せられた怪しいネットワークに関する質問を削除し、発覚を防ごうとした。
民間技術者によってアンテナの存在がバレてしまう
2024年8月18日、海軍情報戦センターの民間技術者がスターシールド(スペースX社による政府専用の人工衛星ネットワーク)を設置していた際、露天甲板に置かれたスターリンクのアンテナを発見した。
この後の及んでもまだマレロは隠蔽を試み、文書を偽造してアンテナは港内でのみ使用されたと見せかけようとした。
だが、結局これは見破られ、海軍による正式な調査が開始。こうしてクサいネットワークに関与した幹部全員が処分を受けることになった。
またマレロ自身は昨年、解任され、今年春の軍法会議で有罪を認めたという。
ちなみにこのクサいネットワークには一つオチがある。
Ars Technicaによると、じつはその当時スターリンクの初期設定SSID(ネットワークを識別するための名前)が「STINKY」だったのだそう。
信じられない話だが、このことはイーロン・マスク氏もXへのツイートで認めている。
つまり今回の一件に関与した幹部たちは、悪事であることを知って”クサい”と呼んでいたわけではなく、ただセキュリティに無頓着で、ネットワーク名を初期設置から変えていなかっただけなのだ。
ちなみに、現在のスターリンクの初期設定SSIDは、「STARLINK」に変更されているそうだ。