ニューヨーク警察の汚職問題、軽微交通違反を不問にする「優待カード」の存在を訴えた警官
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 公職者の汚職問題はどこの国でも問題になっているが、ニューヨーク市の警察労働組合は、組合員である警官たちに「優待カード」を配布している。

 このカードを見せれば、軽微な交通違反や軽犯罪を見逃してくれるというもので、警官は親族や知人に配り便宜を図っていた。

 この長年の腐敗した不正に目をつぶっていられなかった1人の警官は、内部告
発して世間にこの事実を曝露し、訴訟を起こしたのだ。

軽犯罪を見逃す優待カードの存在を公表した警官

 2023年、ニューヨーク市警(NYPD)の警官マシュー・ビアンキ氏(40)は、警察本部に対して訴訟を起こした。

 ニューヨークの警官は、交通違反やその他軽微な違反を逃れることができる「優待カード」を支給されていて、それを友人や親族にばらまいているという不正がどうしても許せなかったのだ。

  結局、この訴訟は17万5000ドル(約2460万円)の和解金で決着がついたが、ビアンキ氏は警察署内で冷遇され、この腐敗した制度がなくなることはなかった。

ニューヨーク市警の「優待カード」とは?

 問題の「優待カード」とは、市の警察労働組合が、組合員である警官たちに発行しているものだ。

 提示すればスピード違反やシートベルト未着用などの軽微な違反を見逃してもらえるという特典があり、警官たちが便宜をはかってもらいたい友人や家族にこのカードを配っている。

 市警のバッジ画像と警察組合の名が印字されているが、警察当局によって正式に認められているわけではなく、職務上の特典として長い間、暗黙の了解のうちに扱われてきたものだ。

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騒ぎの発端は優待カード所持者に違反切符を切ったこと

 そもそもの発端は、ビアンキ氏がこのカードを提示されたのに違反切符を切ったため、”カードに敬意を払っていない”として上司から処罰されたことが始まりだった。

 ニューヨーク湾内にあるスタテン島を拠点とするビアンキ氏は、警官に配布されるこのカードの枚数などがきちんと管理されているかどうかも疑わしいという。

 また、優待カードの乱用に反対する自分のような立場の警官もきちんと保護すべきだと主張する。ビアンキ氏は語る。

これは警察の腐敗です。たとえ、上司に処罰されても、私は考えを変えません。自分が正しいと思うことをきっちりとやるつもりです

 ビアンキ氏の弁護士、ジョン・スコラ氏は、ビアンキ氏のこうした努力が警察署内の職員たちを刺激し、ほかにも内部告発者が名乗り出ることを期待するとしている。

ビアンキ氏は、告発することで自分のキャリアをかなり危うくするかもしれないのに、NYPDにひとりで立ち向かい、正しいことを行うという驚くべき勇気を示したのです(弁護士のジョン・スコラ氏)

 ニューヨークのエリック・アダムス市長は、市は和解条件を認めたと述べただけで、それ以上のコメントは控えた。

 ビアンキ氏は、昨年の訴訟で、現職および退職した警官が数百枚にもおよぶカードを不正利用していると主張した。

 食事の優待や家のリフォーム代の割引と引き換えにカードを渡しているというのだ。

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カードを無視して違反切符を切ったところ降格処分に

 ビアンキ氏自身は、カードを提示されても無視して、交通違反の罰金を課していたとして上司から何度も叱責されていた。

 決定的だったのは、2022年夏、NYPDの最高位にいるジェフリー・マドレー署長の知人だという人物に違反切符を切ったことだった。

 ビアンキ氏はすぐに交通課の職を解かれ、夜間パトロールの仕事に降格されたという。

 この件に関して、警察はコメントを拒否、質問状は法務部に丸投げした。

 カードを発行しているNYPD最大の警察組合、警察慈善協会はコメントを求められたが、返答しなかった。

 この問題は今に始まったことではない。汚職の疑いがあるだけでなく、ネットオークションサイト「eBay」でも転売されているとして、問題のこの「優待カード」は長いこと監視の対象になっていたのだ。

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和解し保釈金はもらえたものの、冷遇される日々

 その後、ビアンキ氏は昼間のシフトに異動になったが、訴訟のせいでキャリアアップが制限されているという。

復職してから、キャリアアップの応募をしても、すべて拒否されています。その理由は明らかで、あからさまに耳に入ってきます(ビアンキ氏)

 だが、勤続9年目のビアンキ氏は訴訟を起こしたことはまったく後悔していないという。

漫然と処罰や報復を受け入れて、黙っているようなことはしなくてよかった。しか
るべき行動を起こすことができて本当によかったと思っています(ビアンキ氏)

 こうしたことが長いことまかり通っていたとは驚きだ。ニューヨークだけの話ではないのかもしれない。

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