
”生きている化石”と呼ばれる古代魚「シーラカンス」は、デボン紀に登場し、古生代から中生代にかけて、175種を超える化石が見つかっており、中生代に大きく多様化してきたことが分かっている。
新たな研究によると、約3億8300万年前のデボン紀後期に生息していたシーラカンスの新種の化石を分析したところ、その進化が、地球の地殻活動に大きく左右されていたことがわかったという。
気温や酸素の濃度といったものではなく、地球のプレートが活発に動き、よく地震が起きていた時代ほど、シーラカンスの新種が登場しやすいのだという。
生きた化石シーラカンスの多様な進化
シーラカンスは「肉鰭類(にくきるい)」というグループの魚で、そのヒレには私たちの腕にも似た丈夫な骨がある。
それゆえに多くの魚よりも、むしろカエルやエミュー、人間といった4本足を持つ脊椎動物に近いと考えられていると、フリンダース大学(オーストラリア)のアリス・クレメント氏は説明する。
生きている化石の呼び名に相応しく、シーラカンスは大昔からこの地球で生きており、一番古い化石はデボン紀初期の4億1000万年以上前のものだ。
だがこうした化石は断片的なものであるため、初期のシーラカンスがどのような姿をしていたのかほとんどわかっていない。
それから時代が下り、恐竜の時代が始まる2億5000万年前になると、シーラカンスはいっそうの多様化をとげた。
これまで世界で発見されたシーラカンスの化石は、175種以上にものぼる。
シーラカンスは絶滅していなかった
ところが6600万年前の白亜紀末になると、シーラカンスの痕跡がぷつりと途絶えてしまう。
それゆえに、シーラカンスは恐竜と共に絶滅したのだと考えられてきた。
それが覆ったのは1938年のこと。
南アフリカの漁師たちが深海から見たことのない大きな魚を引き上げた。これが現代に生きるシーラカンスだったのである。とはいえ、現在彼らは絶滅の危機にあると懸念されている。
その学名「Latimeria chalumnae」は、魚に目をとめ生物学者に報告した地元の博物館職員マージョリー・コートニー=ラティマーにちなんだものだ。
約3億8300万年前の新種のシーラカンスの化石を発見
今回新たに発見された新種のシーラカンスは、西オーストラリア北部グニヤンディにある「ゴーゴー累層(るいそう)」で見つかったものだ。
今は陸地であるこの地だが、3億8000万年前は生き物が豊富な熱帯のサンゴ礁だった。
これを発見したクレメント氏らは、この新種を「Ngamugawi wirngarri」と名付けている。グニヤンディ語で「Wirngarri(高名な長老の名)を称える古代の魚」という意味だ。
素晴らしいことに、新種はデボン紀(4億1900万年~3億5900万年前)のシーラカンスとしては、もっとも保存状態が良いもので、当時生きていたときの特徴をよく伝えているという。
地球の地殻活動がシーラカンスの進化をうながしていた
この新種のシーラカンスの化石を利用して、クレメント氏らは4億1000万年におよぶシーラカンスの進化史を調べてみることにした。
その結果、この魚の進化はおおむねゆっくりとしたものだったが、意外だったのは、そのゆっくりとした進化に最も強く影響を与えていたものだ。
それは地球の「地殻変動」である。
彼らの進化スピードは、海水温・水中の酸素濃・大気の二酸化炭素濃度といったものより、地殻活動に大きく左右されていたのだ。
つまりプレートがよく動き、地震が多い時代ほど、新しいシーラカンスが誕生しやすかったということだ。
シーラカンスは今もなお進化を続けている
ではシーラカンスは今もなお進化しているのだろうか?
これを知るために、クレメント氏らは古い新種と現存する2種のシーラカンス(Latimeria chalumnaeとLatimeria menadoensis)を比べてみた。
その結果によるなら、現代のシーラカンスも3億8000万年前のシーラカンスも、ぱっと見ほとんど変わらないという。
だがじっくり観察してみれば、じつは違うのだ。
確かにまったく新しい特徴を進化させたりはしないかもしれない。
ならば「生きた化石」というのは少々語弊があるだろうと、クレメント氏は述べている。
この研究は『Nature Communications』(2024年9月12日付)に掲載された。