
世界一深い海溝に響く謎めいた音の正体がついに特定された。
10年前から「マリアナ海溝」で記録されてる謎の音は、「バイオトワング」と名付けられた。
だが最新のAIを使った研究で、その音の正体は、「ニタリクジラ」の鳴き声であることが判明したという。
なぜニタリクジラがこのような音を出していたのか?その理由はまだ推測の域を出てないが、一部のグループが、仲間を見つけるために、音を出してお互いに呼び合っている可能性が高いという。
マリアナ海溝に響き渡る謎の音の正体はニタリクジラ
今回行われた研究は、AIを利用して200,000時間以上に及ぶ海の音響記録を解析したものだ。
海洋大気庁(NOAA)太平洋諸島漁業科学センターの海洋学者アン・アレン氏らは、マリアナ海峡から聞こえてくる謎の音「バイオトワング」の正体はニタリクジラの鳴き声だろうと睨んでいた。
というのも、マリアナ諸島近くを泳ぐニタリクジラを観察していた時、10頭のうち9頭が独特な鳴き声を発していたからだ。
アレン氏は「1度なら偶然です。2度目も偶然かもしれません。でも9度目となると、間違いないでしょう」と語っている。
だがニタリクジラ説をきちんと証明するには、バイオトワングの発生位置とクジラの移動ルートを一致させる必要があった。
そしてそのためには、マリアナ諸島周辺の観測基地で記録された数年間分の音響記録を分析せねばならなかった。
この骨の折れる作業を効率的に行うために採用されたのがAIだ。
AIにバイオトワングをスペクトログラムという画像に変換させる。
その結果、音の正体がニタリクジラの鳴き声であることがついに判明したのだ。
なぜニタリクジラは鳴き声を発するのか?
なお今回の研究では、ニタリクジラが広範囲に存在するにもかかわらず、バイオトワングは太平洋の北西部でしか記録されないことも分かっている。
これはニタリクジラの中でも特定のグループだけがこの鳴き声を出すだろうことを示しているという。
マリアナ海溝周辺に住むニタリクジラ特有の「方言」なのかもしれない。
また2016年、エルニーニョ現象で海水温が上昇した場所に、ニタリクジラが集まってきたことがあったが、その時のバイオトワングが一番よく鳴り響いていたこともわかった。
ではニタリクジラは何のためにこの不可思議な音を出しているのだろうか?
確かなことは不明だが、彼らが仲間と連絡を取り合うための音声だと推測されている。
この仮説を裏付けるには、さらなる研究が必要であるとのことだ。
この研究は 『Frontiers in Marine Science』(2024年9月18日付)に掲載された。