そうだ、合体しよう!傷ついた2体のクシクラゲは融合して1つになることが判明
 image credit:Jokura et al., doi: 10.1016/j.cub.2024.07.0

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 傷ついた者同士が心を寄せ合うように、傷ついたクシクラゲ同士は体を寄せ合い融合しひとつとなることが、新たな研究により明らかとなった。

 海に生息するクシクラゲは有櫛動物で、クラゲと名がついているものの、毒針を持つ刺胞動物のクラゲとは別のグループである。

 海でプカプカと浮遊している原始的な生物とされているクシクラゲが、実は高度な神経系や筋肉、消化器官を持ち、驚きの生理学的メカニズムを駆使していることがわかったのだ。

クシクラゲとは

 クシクラゲ(Ctenophora)は、クラゲという名がついてはいるが、有櫛(ゆうしつ)動物という動物群に分類される。

 毒針を持つ刺胞動物のクラゲとは別の生き物で、人間を刺すこともない。進化的にもっとも初期に分岐した生物とされている。

 透明なゼラチン状で楕円形や球形の体を持ち、8列の櫛板(クシバン:繊毛が集まった構造)を持つのが特徴だ。運動器官である櫛板を使って移動し、それが光の加減によって虹色に輝く。

 海面から深海まで幅広く生息していて、大きさは数ミリから1.5メートル前後になることもあるという。

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傷ついた2体のクシクラゲが合体し1つの個体に

 あるとき、英国エクスター大学の研究者で、基礎生物学研究所[https://www.nibb.ac.jp/press/2024/10/11.html]に所属する城倉圭氏らの研究チームが、クシクラゲを飼育していた水槽の中に、口がふたつあるひとまわり大きな個体がいるのを偶然発見した。

 研究者たちは、これは2つの個体がひとつに合体したのではないかと推測し、体の一部を切除した2個体を人為的につくって放置してみた。

 顕微鏡下でタイムラプス撮影を行いながら観察してみると、実験開始からわずか30分後には2体の切除部分が癒着し始め、1時間後にはその境界はほとんど見分けがつかなくなった。

 その後、両者の筋肉収縮がほぼ100%同期し始め、片方の個体を突つくと、もう片方がはっきりと反応した。

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 また、蛍光色素で着色したエサを片方の個体の口から与えると、エサを与えた側とはべつの個体の肛門から排泄物がきちんと排泄されたという。

 つまり、別々の2個体の神経ネットワークだけでなく、消化管もちゃんとつながっていたということだ。

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傷ついたクシクラゲ同士が融合し1つの個体になっていた

 これは原始的なクシクラゲだからこそ得ることができた特殊能力だろう。

 他人の血液や臓器を移植すると拒否反応を示す人間とは違って、クシクラゲは自己と非自己を区別するメカニズムを持っていない可能性が考えられる。

 同種認識に必要な遺伝子が欠如していると思われるが、まだはっきりしていない。このメカニズムの進化は、多細胞生物の進化と深く関係しているのではないかという。

 同種認識メカニズムは免疫とも関わりがある。このクシクラゲの融合の分子メカニズムを解明することで、傷治療や移植などの再生研究に応用することができる可能性があるという。

 この研究は『Current Biology[https://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2024.07.084]』(2024年10月7日付)に掲載された。

References: After injury, these comb jellies can fuse to | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1059481]

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