いけるくち?野生動物たちがアルコールを摂取するのは珍しいことではないことが判明
Photo by:iStock

いけるくち?野生動物たちがアルコールを摂取するのは珍しいこと...の画像はこちら >>

 発酵した果物を食べて、ふらふらしたり、千鳥足になった動物たちの動画は、度々ネット上で見かけるが、アルコールは人間だけが摂取するものではなかったようだ。

 これまで、人間以外の動物がアルコール(エタノール)を摂取するのは、珍しいことで、あったとしてもそれは偶然の出来事だと考えられてきた。

 だが実際には、エタノールは自然界に豊富に存在し、果物や花の蜜を摂取する動物のほとんどが、定期的にエタノール、つまりお酒を体内に取り入れているという。動物たちはいける口だったのだ。

自然界に豊富に存在するエタノール

 今回の研究を率いた、英エクセター大学の行動生態学者キンバリー・ホッキングス氏は、「エタノールを摂取するのは人間だけではありません」と語る。

 ただし人間は酔った状態を楽しむ目的で摂取するが、動物は栄養、薬効、保護のためにエタノールを利用している可能性があるという。

 エタノールは、熟した果物、植物の樹液、花の蜜など糖分が豊富な環境で繁殖する酵母による発酵プロセスを通じて生成される。

 酵母がこれら糖分を嫌気的(酸素なし)に代謝すると、エタノールと二酸化炭素に変換される。

 おそらくこのプロセスは、競争上の優位として進化したもので、細菌の繁殖は抑えるが、酵母自身は耐えられるエタノールが豊富な環境を作り出すことで、細菌を寄せつけないようにしている。

 エタノールの歴史は、顕花植物が甘い密や果実を作り始めたおよそ1億年前の白亜紀にさかのぼる。

 酵母がこれら糖を発酵し始めると、その副産物としてエタノールが作られるようになり、人類の農耕の出現と共により一般的になった。

動物たちがエタノールを口にするのは一般的

 エクセター大学の行動生態学者アンナ・ボウランド氏はこう述べる。

酵母は環境の中に幅広く存在していて、果物、樹液、花の蜜など糖分の多い食べ物は自然に発酵します。これらを食べている種は皆、大なり小なりエタノールを摂取している可能性はあります

 野生では、自然に発酵する食物のエタノール濃度はアルコール度数で1~2%だが、パナマの熟れすぎたヤシの果実では10.2%という高濃度のものも見つかっている。

[画像を見る]

動物たちはどのようにアルコールに適応したのか?

 では動物たちはどのようにして、アルコールに適応しているのだろうか? 

 動物が、人間のように酩酊状態になるなることはめったにない。(ただし一部例外もある

 酔っぱらっている状態で木に登ったり、夜、捕食者に出くわしたりしたら生存という点でかなりまずいからだ。

 そこで、動物たちはさまざまな方法でアルコールに適応してきたようだ。

 例えば、代謝酵素であるアルコール脱水素酵素(ADH)デヒドロゲナーゼは、酵母が進化する過程でエタノール生産へ移行する以前からさまざまな動物の体内に存在していた。

 しかし、発酵した果物や花の蜜が入手しやすくなるにつれて進化して、発酵食料に定期的に接触する動物など、特定の生き物においてこうした酵素が微調整されたようだ。

 とくに霊長類やツパイ(霊長類と食中類の中間の動物)のような哺乳類は、効果的にエタノールを代謝し、人間のように〝酔っぱらわずに〟アルコールを分解する方法を獲得した。

 人間からすると酔っぱらいたいけれど余分なカロリーはいらないが、動物の場合はカロリーは欲しいけれど、酔っぱらうのはご法度なのだ。

[画像を見る]

野生動物によるエタノールの有効利用

 野生動物にとって、エタノールを摂取する利点はいくつかある。

 ショウジョウバエは、エタノールが豊富な環境に産卵する。エタノール濃度に耐えられない寄生虫から卵を守るためだ。

 また、エタノールは発酵によって独特のにおいを発生させ、動物を食料のあるところへ導いてくれる。

 動物がエタノールのにおいに惹きつけられるわけではないが、発酵と関連するにおいは食べ物を探す効果的な信号になる可能性はある。

 さらに薬効性がある。マラリア多発地域でチンパンジーがヤシ酒を飲む例が観察されている。

 摂取するアルコール濃度によってマラリア原虫が抑制されることがわかっている
のではと考えられている。ただしこれはあくまでの推測の域を出ないため、さらに研究が必要だ。

 エタノールは、エンドルフィンとドーパミンシステムを刺激してリラックス感をもたらすとされていて、人間の例でもわかるように、社会的行動や認知行動を変え、それが社交の潤滑油となる場合がある。

[画像を見る]

動物とアルコールの関係を紐解くのは大変

 長年、アルコールに関して、人間目線の考え方をしてきた。この研究でわかるように、動物は独自の方法でアルコールと関わってきたことも確かだ。

 だが、これを研究するのは容易なことではない。食べ物内のエタノール濃度を知ることはできるが、野生動物が摂取する正確なエタノール濃度を知ることはできないからだ。

 動物は食料不足など特別な環境下でだけ意図的に発酵食品を求めるのか? それともバランスのとれた食事の一環として定期的にエタノールを取り入れているのか?

 それとも自然にあるエタノールは動物の行動に有益な影響を与えているのか? その程度はどれくらいなのか?疑問は次々と出てくる。

 この研究は『Trends in Ecology and Evolution[https://cell.com/trends/ecology-evolution/fulltext/S0169-5347(24)00240-4]』誌(2024年10月30日付)に掲載された。

References: Alcohol consumption among non-human animals | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1062566?] / Alcohol consumption in the natural world is way more common than you thought[https://www.zmescience.com/ecology/animals-ecology/animals-eat-ethanol/]

編集部おすすめ