ついにAIキリストが誕生。告解を聞き信者と対話する、スイスの教会で始まった新たな試み

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 日々の生活の中で、「AI」という言葉が当たり前のように飛び交うようになったのは、ここ数年のことだと思う。

 もはやAIはいたるところに浸透しており、今後もなくなることはない。

ならば有意義に利用し、共存する道を探るほうが賢明だろう。

 だがAIが神の代理人となり、人間の心の領域にまで踏み込んでくるとなるとどうだろう?

 スイスのルツェルンにある教会では、AIによるイエス・キリストのホログラムが、告解をしに来た信者と対話するという試みを始めたそうだ。

 AIキリストは、どこまで生きている人間に寄り添い、どのように罪の赦しを与えるのだろう?

スイスの教会に登場した「AIキリスト」

 スイス・ルツェルン最古のカトリック教会である聖ペテロ礼拝堂では、AIのイエス・キリストが信者の告解を聞き、アドバイスをするという試みを行っている。

 このAIキリストは、地元のルツェルン応用科学芸術大学の研究室との協力で行われている実験的なアート・インスタレーション、「Deus in machina[https://www.kathluzern.ch/mein-engagement/deus-in-machina](機械の中の神)」の一環として実現したものだ。

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 最初に「告解」について説明しておこう。告解とはカトリックや正教会などで行われる「赦し(ゆるし)の秘跡」である。

 懺悔と混同している人も多いかもしれないが、「懺悔」とはもともと仏教からきた言葉で、過去の罪を認めて許しを請い、苦悩から解き放たれることを言う。

 告解は神父を仲介にして神に自分の罪を告白し、神の赦しを請う「秘跡」の一種であり、キリスト教的な宗教儀式である。

 ただし、神と自己との一対一の関係を前提とするプロテスタントでは、告解は基本的に行われない。

 教義はともかく、心にあった後悔や罪悪感、わだかまりを聞いてもらうことで、気持ちが楽になったりストレスから解放されたりという、カウンセリング的な効果も大きいようだ。

聖書のデータを学習したAIが信者にアドバイス

 2024年8月から開始されたこの取り組みでは、告解室に入った信者がホログラムで生成したイエス・キリストのアバターと対話することで、アドバイスを受け取ったり気づきを得たりする。

 この「告解」に先立ち、どんなアバターが効果的か、科学者と神学者の間で議論が交わされた。聖ペテロ礼拝堂の神学者、マルコ・シュミット氏は、その経緯についてこう語る。

過去の聖人や神学者、あるいは一般人などさまざまな案が出ました。

しかし、やはりイエス・キリストその人に話を聞いてもらうのが一番最適だとの結論に達したのです

 イエス・キリストのデザインは、多くの人にとってなじみ深い長髪に髭というスタイルが採用された。

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 アバターが決定すると、次の課題はAIに聖書を学習させることだった。学習データはオンライン上にある宗教に関する情報と、新約聖書にもとづいたデータが訓練用に使われた。

 だがネット上にあるキリスト教の情報は、カトリックのものだけではない。そんなトレーニングデータを学習した結果、AIキリストが生み出す「思想」が教会の教義に合わないのでは?といった懸念もあったそうだ。

 だが蓋を開けてみると、どうやらそんな心配は杞憂に終わったようだった。実際に運用を開始する前に行ったテストの結果について、シュミット氏は次のように述べている。

これまで行ったすべてのテストで、「彼」の答えは聖ペテロ礼拝堂に関する私たちの神学的な理解と一致しています

利用はあくまで自己責任で

 テスト結果を受けて、実際にAIキリストによる告解が始まった。告解室に入ると、格子状の仕切りの向こうにAIキリストのアバターが現れる。そしてこんな注意事項が伝えられる。

いかなる場合も、個人情報を開示しないでください。本サービスは自己責任でご利用ください。同意する場合はボタンを押してください

 ここでボタンを押すと、AIキリストとの会話がスタートするのだ。

実際に喋っているAIキリストの映像がこちら。なんと「彼」は100か国語を操るのだそうだ。

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 とはいえ、これはあくまでも実験であり、カトリック教会が認める「秘跡」として認められるものではないそうだ。

 確かに面白い実験だが、信仰という側面を考えると、AIキリストが一般信徒に与える影響についても危惧しなければならないだろう。

これは告解ではありませんし、告解を真似するつもりもありません。私たちがここで行っているのはあくまでも実験です。

人々がAIキリストにどう反応するかを見て、理解したかったのです。彼らはAIキリストと何を話すでしょうか? AIキリストとの対話に興味を持つでしょうか?

私たちは人々にAIを体験してもらうことで、議論を始めたかった。そうすることで、お互いにAIについて語り合うための基盤が整います。

AIは私たちを魅了します。しかしAIにも限界が存在し、倫理的な問題が生じる可能性もあります

体験者の評価は賛否両論

 実験が始まってからの2か月で、1,000人以上もの人々が、AIキリストと「会話」する機会を得た。その中には観光客やイスラム教徒など、カトリック信者以外も含まれていたそうだ。

 そのうち230人以上からフィードバックが寄せられたが、おおむね好意的なもので、その多くは「スピリチュアルな体験」をしたと感じているらしい。

  • 暴力の連鎖について、どう断ち切ったらいいかを質問しました。彼の答えは「報復を求めず、祈りなさい」でした
  • 彼は機械なのに、キリスト教の観点から、多くのアドバイスをくれました。本当に慰められました
  • 彼は私に、物事の進め方について再確認させてくれました。そして、どうすれば人々が神をより理解し、神に近づくことができるだろうかという疑問を解決するのも助けてくれたんです

 また、ある記者が安楽死を決意した病気の高齢者を、どうサポートしたらいいか質問したところ、AIキリストは次のように答えたという。

愛する人に、次のような質問をしてみてはいかがでしょうか。

  • この困難な時に、あなたの信仰はあなたにとって何を意味しますか?
  • 人生であなたに平和や喜びをもたらすものは他に何かありますか?
  • どうすればあなたを支え、慰めることができますか?

 もちろん、中には否定的な意見もあった。

  • 所詮は機械仕掛けでしょう。機械に話しかけたくなんかないよ
  • まるでカレンダーの決まり文句を繰り返しているみたいに陳腐だった
  • これは何の結果ももたらさないと思います
  • 人間が機械よりはるかに優れている分野なのだから、人間が行うべきなんだ

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 シュミット氏は神学者として、この試みを以下のように評価している。

AIキリストのアイデアは、宗教について、キリスト教について、そしてその信仰について話すことができる、非常に簡単で親しみやすいツールです。

これを多言語のスピリチュアル・ガイドのようなものに作り直すこともできるのではないかと考えています。

人々には「キリストと話したい!」という渇望があるのだと思います。

みんな答えを求めているのです。彼らは言葉を求めており、キリストの話すことに耳を傾けたいのです。

それが一つの要素であり、同時に好奇心もあると思います。人々はこれが何なのか知りたいと思っているんです

 日本語もしゃべってくれるというAキリスト。みんななら彼と何を話してみたいと思うだろうか。

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References: Deus in machina: Swiss church installs AI-powered Jesus[https://www.theguardian.com/technology/2024/nov/21/deus-in-machina-swiss-church-installs-ai-powered-jesus] / ‘AI Jesus’ Is Now Taking Confessions at a Church in Switzerland[https://www.vice.com/en/article/ai-jesus-is-now-taking-confessions-at-a-church-in-switzerland/]

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