インカ帝国の神秘的な記録道具、複数の紐に結び目をつけて記述する「キープ」の謎に迫る
インカの紐でできた記録道具、キープ image credit:<a href="https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Inca_Quipu.jpg" target="_blank">WIKI commons</a> CC BY-SA 3.0

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 アンデス文明における最後の先住民国家「インカ帝国」では、1000年以上もの間、人々は「キープ」と呼ばれる紐状の道具を使って、情報を記録しやりとりしてきた。

 キープ(Quipu)は単色、あるいは着色された紐で作られ、さまざまな形の結び目がついており、その結び目の位置や形、紐の色などに情報が含まれているが、これまで詳しいことはよくわかっていなかった。

 新たな研究では、歴史上重要な2つのキープについての解読がなされた。

インカの紐状の記録道具「キープ」

 インカ帝国(1438年~1532年)は、文字を持たない社会・文明であった。そのため、キープ(Quipu)は特に重要な役割を果たしていたと考えられている。

 キープは紐に結び目をつけた記録道具で、彼らの記録手段および通信手段だったと考えられる。

 もっとも太い親紐に下がり紐が房状に結びつけられているが、結び目の形、紐の色、結び目の巻き数や位置などがそれぞれ違い、そこに情報が含まれている。

 どうやら十進法が使われているようで、結び目の位置によって1、10、100、1000、10000の位が表される。

 下がり紐は3本ほどの少ないものから、2000本近い大きなものまである。

 キープはだいたい綿か、ラクダ、ラマ、アルパカなどのラクダ科動物の毛の繊維から作られた。これらは染色することもでき、植物繊維や人毛を編みこんだものもある。

 特殊なスキルを持つキープ製作者キープカマヨックという役人がいて、キープの紐の色や紐の繊維の回転方向や撚り合わせ、紐の取りつけ間隔などを決定していたと思われる。

 キープの用途については、初期のスペインの年代記作者が倉庫の在庫、人口調査、税、貢納義務の記録だと書いている。

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新たに見つかった数字のつながり

 新たな研究では、チリ北部で発見され、1970年に民族数学者のマルシア・アッシャーと人類学者のロバート・アッシャーによって初めて記録されたふたつのキープのデータを分析した。

 ひとつはこれまで見つかっている最大のキープで、長さが5メートル超、1800本以上の下がり紐がついている。

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 もうひとつはおよそ600本の下がり紐が複雑に配置されている。

 両方とも、下がり紐を10または7のグループに区切るために赤と白の仕切り紐を使っている。

 大きなキープのほうは、10のグループに分かれていて、各グループには7本の下がり紐がある。小さいキープは、7つのグループに分かれていて、それぞれに10本の下がり紐がある。

 小さく複雑なキープは、大きなキープの情報の要約と再割り当てを表している。つまりこのふたつは同じデータ内容を記録しているが、その表し方が違う。

 これは、これまでのキープの中でももっとも複雑な数字のつながりで、パターン検索を容易にするデジタルツールが最近登場して初めて判明したことだ。

新たなキープの手がかり

 このふたつのキープの示す数字は、なにかの数を数えて割り当てているようだが、それがなんであるかはまだわかっていない。

 同じ情報をふたつの異なるキープで別々に表わさなければならなかったのは、なぜなのかは推測するしかない。

 おそらく、大きい方のキープはコミュニティから集められたさまざまな食糧作物を記録したもので、小さいほうはこれら食糧が必要とする人々の間でどのように分配されたかを表しているのではないだろうか。

 現在、およそ1600のキープが現存していて、おもにアメリカ大陸とヨーロッパで保管されている。

 研究のため、これらキープの特徴をデジタル化してデータベースに保存する作業が行われているが、現在保存できてるデータは全体の半分にも満たない。

 デジタル化をさらに進め、もっと多くのキープの手がかりを発見し、未知の数字のつながりを見つければ、古代アンデスの人々についての理解を深めることがでできるだろう。

 この研究は『Journal of the Institute of Andean Studies[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00776297.2024.2411789]』誌(2024年11月10日付)に掲載された。

References: The Incas used mysterious stringy objects called ‘khipus’ to record data. We just got a step closer to understanding them[https://theconversation.com/the-incas-used-mysterious-stringy-objects-called-khipus-to-record-data-we-just-got-a-step-closer-to-understanding-them-233875]

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