
死海の海底から白い煙のような煙突状の物体が発見された。最大で高さ7mもあるこの物体は、塩の結晶でできており「岩塩煙突(halite chimney)」と呼ばれる。
もちろん煙突なのだから、ゆらゆらとたなびく煙だって出ている。と言っても、それは煙ではなく塩水である。
実はこの煙突、死海周辺の住民にとっては重要でもあるかもしれない。というのも、岩塩煙突は地域周辺に突然出現する陥没穴のサインとなるからだ。
死海の湖底から伸びる奇妙な白い煙突
西をイスラエル、東をヨルダンに挟まれた「死海」は、海と呼ばれるものの本当のところは湖だ。
塩分の濃度が非常に高いことが特徴で、そのせいで浮力が強く、「湖面に浮かんで本が読める湖」として有名である。
それほどまでに塩分濃度が高いのは、そこから水が流れていく川がないことにくわえ、高温と乾燥によってどんどん水が蒸発していくためだ。
湖水の蒸発は水位が年に1mも低下するほどで、そのおかげで現在の水面は海抜マイナス438mにまで下がっている。
そうした死海の湖底でまるで煙のような白い煙突を発見したのは、ドイツ、ヘルムホルツ環境研究センターのクリスティアン・ジーベルト博士だ。
驚いたことに、白い煙突からはゆらゆらと揺らめく液体まで放出されているという。
深海の海嶺[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E5%B6%BA]には「ブラックスモーカー」と呼ばれる、地熱で熱された水を吐き出す熱水噴出孔の一種が存在する。
ジーベルト博士によれば、今回死海で見つかった「岩塩煙突」は、これに非常によく似ているが、その中身はまったくの別物であるという。
岩塩煙突の塩水はどこからやってきたのか?
海嶺沿いのブラックスモーカーが硫化物が混ざった熱水を噴出するのに対し、岩塩煙突は塩分濃度の高い地下水を吐き出している。
問題はそうした塩水がどこからやってきたのか、だ。
ジーベルト博士が調べたところ、岩塩煙突から出ている塩水には、宇宙に由来する塩素の同位体(36Cl)や、淡水微生物の遺伝子が含まれていることが確認された。
これらが示しているのは、この塩水がもともとは周辺地域の帯水層の水だったろうということだ。
帯水層に溜まっていた地下水が湖底の堆積物に染み込み、やがて岩塩でできた古くて分厚い岩石層にまで到達する。ここで塩分が混ざって、湖に流れ込む。
すると面白い現象が起きる。この塩水の密度は死海の水よりも低い。そのために、まるでジェット気流のように上へと昇っていくのだ。そのせいで、本物の煙が立ち上っているように見える。
さらに、湖底から湧き出る塩水の塩分は、だんだんと結晶化する。こうして出来上がるのが、まるで煙のように有機的な形をした岩塩煙突だ。
これらは1日に数cm成長することがあり、大抵の煙突は1~2mくらいの高さだが、中には7mを超える巨大なものもあったという。
岩塩煙突は陥没穴が出現する前兆である可能性
こうした岩塩煙突は、地域住民にとって重要なものとなる可能性もある。
と言うのも、それを「陥没穴」が出現する早期警報装置として利用できるかもしれないからだ。
陥没穴(シンクホール)とは、地下に空洞ができ、その地面が崩落する現象だ。
死海の地下では、塩の層が侵食されて巨大な空洞が作られており、ここ数十年では幅100m、深さ20mものシンクホールが無数に出現している。
現時点で、いつどこで陥没穴が出現するのか正確に予測する技術はない。だが、それは地域の農業やインフラを破壊する危険があるどころか、住民の命にも関わる重大なことだ。
今回の調査では、岩塩煙突ができるところは、地下の侵食プロセスが効率的に進んでいるだろうことが明らかになっている。
したがって、岩塩煙突は、陥没穴が出現する前兆だろうと考えられるのだ。
ジーベルト博士らは危険な場所を予測するために、潜水ドローンで死海湖底の岩塩煙突をマッピングしてはどうかと提案している。
「今の時点で、差し迫った崩壊の危険性がある地域を特定するための効率的かつ唯一の手段です」
この研究は『Science of the Total Environment[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969724069092?via=ihub]』(2024年10月10日付)に掲載された。
References: Mysterious White Smokers Discovered in the Dead Sea[https://scitechdaily.com/mysterious-white-smokers-discovered-in-the-dead-sea/]