月では地球より時間が速く進む。アインシュタインの相対性理論を用いて物理学者が計算

月では地球より時間が速く進む。アインシュタインの相対性理論を...の画像はこちら >>

 地球と月では、時間の流れるスピードが違うようだ。新たな研究によると、月の時計は地球よりも「1日あたり56.02マイクロ秒」だけ速く進むそうだ。

 人間の感覚だとないにも等しい”時差”だ。ところが、この時差はNASAの「アルテミス計画」などの宇宙ミッションではきわめて大きな意味を持つという。

 そもそもなぜ地球と月では時間の流れが違うのか? そしてなぜ物理学者はこのわずかなズレを重視するのか? ここで紹介するのは、相対性理論を使った時間の科学だ。

宇宙に絶対的な時間は存在しない

 時間は誰にとっても平等と思われるかもしれない。

 だが、じつのところ、2人の人物がまったく同じ速度で、まったく同じ方向に移動していない限り、両者にとっての1時間が同じ長さになることはない。

 相対性理論が示す重要な真実は、絶対的な時間というものが存在しないということだ。

 それゆえに地球と月とでは、時間の流れが違ってくる。

 月は自転する地球の周りを周回している。だから月の動きは、地球上の任意の地点に対して相対的なものとなる。これは地球から見た時、月の時計を遅れさせるような効果がある。

 また月の重力は地球のものより小さいので、これもまた時間の流れに影響する。こちらの影響は先ほどとは逆で、月面の時計を速く進ませる効果がある。

 つまり、月の時計と地球の時計とでは進み方が違うのだ。

では具体的にどのくらい時計の進み方にズレがあるのか?

 2024年4月、なんとアメリカ政府が科学者たちにそれを明らかにしてみろと挑戦状を出したのだ。

 これを受けて立った科学者たちの中に、米国コロラド大学ボルダー校の理論物理学者ニール・アシュビー氏らがいた。

[画像を見る]

月の時計は1日あたり地球より56.02マイクロ秒速く進む

 この複雑な問題を解くために、アシュビー氏らは、地球と月が太陽の重力のみによって自由落下しつつ、お互いの重心の周りを回っているという前提からスタートした。

 こう捉えることで、地球と月の自転・潮汐力・完全な球形ではないことなど、さまざまな複雑な要因の影響を定式化しやすくなる。

 そして算出された月の時計と地球の時計のズレは、1日あたり56.02マイクロ秒だ。月の時計は24時間で0.00005602秒だけ地球の時計よりも速く進むのだ。

 人間の感覚的にはないにも等しいわずかな差だ。だが月と地球とで頻繁に通信が交わされる宇宙ミッションでは無視できないズレなのだ。

 とりわけ重要なのは、月でのナビゲーションの安全性だ。現代のナビゲーション・システムをうまく機能させるには時計を同期させることがキモとなるが、それは光速で飛ぶ電波によってなされている。

 光は1ナノ秒(0.001マイクロ秒)で30cm進む。人間的には電光石火の速さだが、それでも地球と月で生じる56マイクロ秒のズレを考慮しないと、1日あたり17kmもの誤差が生じることになる。

 「アルテミス計画」のような宇宙ミッションでは、探査機や宇宙飛行士の位置を毎時10m以内で把握することが求められる。したがって56マイクロ秒のズレはとても許容できないものだ。

 もちろん、たくさんの人間やロボットが月で活動し、このレベルでの時間管理が必要になるまでには、数年から数十年がかかることだろう。だが人類の宇宙進出に携わる科学者たちは、そのための準備を今から着々と進めているのだ。

 この研究は『The Astronomical Journal[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-3881/ad643a]』(2024年8月12日付)に掲載された。

References: Time moves faster on the moon, new study of Einstein's relativity shows | Live Science[https://www.livescience.com/space/the-moon/time-moves-faster-on-the-moon-new-study-of-einsteins-relativity-shows]

編集部おすすめ