
これまでの研究から、我々現生人類であるホモ・サピエンスの先祖が、ネアンデルタール人と交配していたことは明らかになっている。ではいつごろ、どれだけの期間、愛し合い、子供を育んでいたのだろう?
新たな2つの研究によると、5万500年前から4万3500年前の約7000年間、交配が続いていたことが明らかとなった。
ヨーロッパの4万5000年前のホモ・サピエンスのゲノム解析
私たち現生人類はホモ・サピエンスという種に分類されるが、非アフリカ系とされる人々はネアンデルタール人の遺伝子も持っている。
こうした遺伝子は一体いつ、どのようにして獲得されたのか? 最新の2本の研究は、それについて想像力をかき立ててくれる新事実を明らかにしている。
まず紹介するのは、ドイツ、マックス・プランク進化人類学研究所の古遺伝学者ヨハネス・クラウゼ氏らによるものだ。
この研究では、4万5000年前ヨーロッパに住んでいたホモ・サピエンスの7つのゲノムが解析された。
そのうち6つはドイツ、イルゼンホーレ(Ilsenhöhle)遺跡で発掘された骨格、1つはチェコ共和国、ズラティ・クニャ(Zlatý kůň)遺跡で発掘された骨格から採取されたものだ。
そして明らかになったのは、骨格全員が遠い親戚であることだ。つまり全員が、アフリカからヨーロッパに移住してきた同じ系統の子孫だったのだ。
私たちの祖先はアフリカから旅立ち、ヨーロッパや東アジアなど、新天地でネアンデルタール人と出会った。その出会いがどのようなものだったのか不明だが、4万9000~4万5000年前には彼らは交配していたという。
こうして両者の間にはやがて子供が生まれることになる。
ドイツとチェコの古代人は、この直後に出現していることから、おそらくはこの時の子孫だと考えられている。
すでに述べたように、現代の非アフリカ系の人々の多くは、その遺伝子の1~3%がネアンデルタール人のもので占められている。
こうした人々は、アフリカを離れネアンデルタール人と交配した一大集団の子孫だろうと考えられているが、ドイツとチェコの古代人も同様だ。
ドイツとチェコで交配した系統は絶滅
だが、それによって獲得されたせっかくの遺伝子も、ドイツとチェコの系統にとって良い結果にならなかった。なぜなら彼らの系統はすでに絶滅しているからだ。
これについて、主執筆者のアレヴ・スメール氏によれば、それは「進化の行き止まり」だったという。
「アフリカの外で発見されたもので、5万年よりも古い現生人類の遺骸は、現代人の祖先ではなく、進化的な行き止まりでした(アレヴ・スメール氏)
ネアンデルタール人系のDNAは7000年間続いた交配の証拠
マックス・プランク進化人類学研究所の進化遺伝学者レオナルド・イアシ氏らによるまた別の研究でも、それとほぼ同じ結論に達している。
それによるならホモ・サピエンスの先祖とネアンデルタール人の交配は、5万500~4万3500年前に起きたと考えられるという。
こちらの研究では、私たちがネアンデルタール人の遺伝子をいつ獲得したのか明らかにするために、世界中から集められた現代人334人のゲノムを解析した。
ここから現代人にDNAを分け与えた少数のネアンデルタール人グループが特定された。つまり現代人のネアンデルタール系DNAは、ごく一握りのグループからもたらされたということだ。
では、それはいつ頃のことなのか?
それは現代人が持つネアンデルタール系DNAの長さが教えてくれる。そのDNAは、親から子孫へと伝えられる際のDNA組換えによって短くなる。
つまり世代を経るごとに短くなるので、その長さから現代人がネアンデルタール系DNAをいつ獲得したのか推測できる。
これを手がかりにすると、私たちの祖先とネアンデルタール人は、5万500~4万3500年前の7000年間にわたり子供を作り続けてきたらしいことがわかるのだ。
また、現代人のゲノムの中で特にネアンデルタール人系DNAが多い領域を調べると、皮膚の色素沈着・代謝・免疫に関連するものが多いことも明らかになっている。
イアシ氏らの仮説によるなら、こうした領域に獲得されたネアンデルタール人系DNAは、アフリカから旅立った私たちの祖先が、そこで直面したそれまでとは違う環境に適応する手助けをした可能性があるという。
ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の本当の関係は?
今回の2本の研究は、古い道具などを対象とした考古学的な研究で示されていた、現生人類とネアンデルタール人の出会いと交流の物語を裏付けるものだ。
だが本当のところ、両者の関係はどのようなものだったのだろう?
これについて、今回の2本の研究は何も答えていない。
だが2本目の研究に携わったカリフォルニア大学バークレー校のプリヤ・ムルジャニ氏は、記者会見でこう述べたという。
両者の違いは非常に大きいだろうと想像されますが、じつのところ遺伝的にはかなり小さなものです。違いよりも類似点の方がはるかに多かったのです(プリヤ・ムルジャニ氏)
ホモ・サピエンスとネアンデルタール人との出会いは、案外私たちが普通に経験している出会いとそれほど変わらないものだったのかもしれない。中には情熱的な恋に落ちる者たちだっていたのではないだろうか?
この研究は『Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-024-08420-x.epdf?sharing_token=tMWqL5HcevEa_cDMIEU_bNRgN0jAjWel9jnR3ZoTv0Oi_c4FI_XTAYjpBHQYvut-I1cmf-MJ-Fvj5eyY3wMf44qk2X3-naaJt-MJGSF5K8FsSivRsR6WyRIMPbx5ER897_4veTzHulSrDXdzwNyhz9i2N8EJOAL5xW5lIdYCzF6Rda6tP4gTpjddgEGaoLhI_Ufsy8krzfl8cFeP-KCB9JMmCW4yRoyeCrZWcrRdsdY=&tracking_referrer=www.livescience.com]』(2024年12月12日付)と『Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adq3010]』(2024年12月13日付)に掲載された。
References: Modern human ancestors and Neanderthals mated during a 7,000-year-long 'pulse,' 2 new studies reveal | Live Science[https://www.livescience.com/archaeology/modern-human-ancestors-and-neanderthals-mated-during-a-7-000-year-long-pulse-2-new-studies-reveal]