世界で唯一の生きた象形文字、ナシ族の「トンバ文字」が絶滅の危機
ナシ族のトンバ文字 / public domain/wikimedia

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 トンバ文字とは、中国のチベット東部や雲南省北部麗江県に住むナシ族に伝わる象形文字のことだ。ボン教の創始者によって作られたとされる。

 7世紀の唐代初期にはすでに使用されていたというが、その紀元は7000年前までさかのぼる可能性[http://mongolschinaandthesilkroad.blogspot.com.au/2013/03/dongba-culture-linked-to-neolithic-cave.html]があるらしい。

 驚くことに、現在でもナシ族の長老たちの間では使われており、世界で唯一、現役の生きた象形文字だ。

 この古代文字は使用するナシ族の人々の減少により絶滅の危機に瀕している。しかし、その文化と文字を未来に伝えようとする取り組みが、地域住民や研究者によって続けられている。

ナシ族に古くから伝わる独特の象形文字「トンバ文字」

 ナシ族は何千年も昔から雲南省の美しい山岳地帯に住み、豊かな独自の文化を築いてきた。

 現在、ナシ族27万人のほとんどは麗江県に住んでいて、昔ながらの伝統の多くを保っている。

 彼らが使っていたトンバ文字は、象形文字でもあり表意文字あるが、ここでしか知られていない。

 古代エジプトの象形文字と似ているが、ほかの文字とは一線を画す独特の動きとユーモアがある。

 文字は全部で1300ほどしかないが、壮大な天地創造の物語から、悪魔祓いのやり方まで膨大な数の経典を書くのに使われてきた。

 古代ナシ族の信仰、習慣、伝統、生活様式を詳細に記録した百科事典のようなものといえよう。

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 書き方は単純ではない。絵文字は物質的なものだけではなく、抽象的な考え、音節、発音方法を表すために使われている。

 例えば、「崖」という文字は崖の形をしているが、「鶏」と同じ発音で、文字で表すときは崖の中に鶏の頭が描かれる。

ひとつの絵文字で異なるフレーズや文章全体を表すことができる。

 絵文字は非常に論理的で、これが上下逆さまに描かれていると、否定的な意味を示す。人と人の間に引かれた直線は戦いを表し、絡み合った線は「話し合い」を示す。死んだ動物の目には瞳孔がない。

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上記のように、一見単純に見える絵文字にも想像についての詳細な説明が組み込まれている。

例えば、ナシ族にとってもっとも重要な神話のひとつ「トン族とシュウ族の戦い」の一部は以下のように書かれている。

太古の昔、空と地球がまだ形になっていなかったとき、太陽と月がまだ創造されていなかったとき、星がまだ現れず、山や峡谷、木や石がなかったとき・・・・

トンバ教の司祭にのみ受け継がれてきた文字

 トンバ文字はナシ族の中でもごく少数の「トンバ」と呼ばれる司祭によってのみ受け継がれてきた。

 その誕生や発展はトンバ教の出現と密接にかかわっている。トンバ教はチベットのボン教の信仰に根ざしていたようで、「トンバ」はナシ語で「賢者」を意味する。

 トンバ教は白水台近くの洞窟に住んでいたトンバ・シロという名のボン教のシャーマンが起源だという説もある。

 ボン教の僧侶たちは農民としてナシ族の中に溶け込み、副業として悪魔祓いを始めたと考えられている。

 19世紀始めまでに、トンバ教の僧侶たちはさまざまな儀式を行うための膨大な宗教用語を生み出していった。

 彼らの経典には儀式のほか、伝説、詩、祈り、天文学、医学、占いなどが含まれる。これらは古代文化研究にとって、生きた化石といえる。

 トンバ教では、自然と人間の関係がベースになっていて、両者は母親の異なる異母兄弟なのだという。

 自然はシュブと呼ばれる精霊たちに支配されていて、これら精霊は人間とヘビのキメラとして描かれる。

 司祭は儀式を行って精霊を鎮め、その怒りが地震や旱魃などの自然災害につながるのを防ぐという。

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トンバ文字の絶滅の危機を救え!

 1949年の中国共産主義革命後、トンバ僧侶の数は激減し、何千ものトンバ文字で書かれた写本が破壊された。

 革命前には4000人もいたトンバ僧侶たちは現在60人ほどしか残っていないと推定されている。

 当然、トンバ文字を読み書きできる者も減り、高齢の僧侶たちはトンバの伝統や文字が消滅してしまうことを危惧している。

 現在、消滅しかけているトンバ文字だが、過去の過ちに気づいた中国政府がナシ族の文化を保存するために、トンバ文字の復活に動いているという。

 トンバ文字の読み方を解説した書物が30冊以上も出版されている。

 これが功を奏してか、1982年には200人、1985年には1700人がトンバ文字を読めるようになったという。

 現在でもナシ族自身を含め、トンバ文化を後世へ伝えていく活動は続けられている。

 2003年、ユネスコが主催する世界記録遺産にも登録され、トンパ文字で作成された古代ナシ族の百科事典ともいえる宗教典籍 『トンバ経』のデジタル保存が進められている。

 また日本では、20世紀の終わりにキリンビバレッジ「日本茶玄米[https://www.cancanziten.com/?can=5253]」のパッケージデザインに採用されたことで話題となった。

References: Dongba: The Last Hieroglyph and the Struggle to Save Naxi Culture | Ancient Origins[https://www.ancient-origins.net/ancient-places-asia/last-hieroglyphic-language-earth-and-ancient-culture-fighting-survive-001264]

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